——医局を辞めて1年。医師としての再出発は泌尿器科ではなく、消化器外科だったのですね。
最初から消化器外科を選んでいたら、遠回りをせずに済んだのかもしれません。この科を選んだのは、書物のイラストや映像ではなく、この目で人体の内部の構造を確認したいと思ったからです。その点、消化器外科ならば幅広く臓器を扱うので、総合的に人間の肉体を肌で実感できる。研さんを積み、手に職をつけるという職人的な部分にも魅力を感じました。
外科医になってからは、まともに休んでいないかもしれません。今の病院も非常勤で週4日の勤務なのですが、術後の容体急変などもあるので、実際は週6日から7日は出ています。でも、別に嫌々やっているわけじゃない。外科医とはそういうものだと思っています。
僕がやりたいのはオペの技術を上げ、目の前の患者を助けることです。だから新しい技術を身につけたり、緊張感を持ち続けたりするために、躊躇なく職場を変えています。現在勤務している病院は、A病院から数えて4つ目になりますが、在籍期間は各病院とも2年くらいです。
転職先は毎回、自分で見つけています。僕の場合、医師紹介会社が紹介してくれる病院と自分の希望とが合致することがあまりないので。どんなふうに探しているのかというと、「この病院で、この先生からこうしたことを学びたい」という病院を5〜6件ピックアップして、順に当たっていくんです。興味を示してくれる確率は、5〜6件のうちの1件ほどといった感じです。
——医局を離れて後悔したことはありますか?
医局を辞めたことに後悔はありません。ただ、次の職場を自分で探さなければならないのは正直大変ですね。勤務形態は今まで勤務してきた4つの病院とも非常勤。常勤の枠には決して入れません。
また、オペには大学や先生ごとの流派のようなものがあり、そこには1つのヒエラルキーができあがっている。そこに新参者の僕が入ると、序列のどこに配置すればいいか分からないためか、結局いつもいちばん下に置かれる。この病院でこんな手術を何件やったといったことは全くというほど考慮されず、むしろ政治力が物を言います。外科系は特にこうした傾向が強いのかもしれませんね。しかし、「身軽さ」と「安定」を天秤にかけ、自分で「身軽さ」を選んだ以上、仕方がないこと。僕自身は技術が磨けさえすればそれでいいと思っています。