——新しい勤務先はどのように探したのですか?
定期的な配置転換の時期ではなく、中途半端なタイミングで辞めたので、「君のキャリアに相応するポストはすぐには用意できないから、自分で探してくれ」と言われました。もともと私は、独立心旺盛なタイプなので、そう言われても特に動揺はしませんでしたね。「専門医や指導医の資格もあるし、それなりのキャリアも積んでいる。まあ、仕事にあぶれることはないだろう。自分に合うところをゆっくり探せばいい」という考えでした。妻もそれに賛成してくれました。
現在の勤務先は、同じ病院にいた後輩から教えてもらいました。実は彼も病院を辞めたいと考えていて、密かに転職活動をやっていたんですね。彼から「医師紹介会社から紹介されている病院があるが、なかなか良さそうなところだ。そこで医師をもう1人探している」という話を聞いたのが最初です。先方と直接交渉ができないこともなかったんですが、あえて医師紹介会社を通しました。そのほうが報酬や労働条件に関する交渉がしやすいと考えたからです。
おかげさまで前の病院を退職してから間をおかず、新しい勤務先に着任できました。結局、前にいた病院では医師100人のうち僕を含め20人がこの4月までに辞めたそうです。
——今の病院に決めた理由は何ですか?
きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、お金ではなく、「自分のやりたい医療ができる、心地いい環境かどうか」という点を重視しました。報酬なんてどこでも大差ないでしょう? 今回病院を辞めたとき、学会などで知り合った先生方に「実は辞めるんです」と伝えたところ、何人かの方から「うちの病院に来ないか」と声をかけていただきました。でも、僕の選択肢の中にはどこも入らなかった。なぜなら、「大きな病院はもういいな」という気持ちがあったからです。大きな組織の中の1人として、多少意にそぐわないことがあっても粛々と仕事をするより、個々の顔が見える環境下で、あるべき医療に取り組みたい。今がそのタイミングだと思ったんです。
今の病院はベッド数100床ほどの小さな病院ですが、全員が同じ目標に向かっているので、とてもやりやすい。毎日楽しいですね。
——大病院と小規模な病院ではどんな違いがありますか?
大きな病院と小さな病院、それぞれに長所、短所があると思います。大きな病院のいいところは「安心」でしょう。名前は通っているし、福利厚生も充実している。スタッフが多いから、治療に関する相談に乗ってもらいやすいという良さもあります。
小さな病院には、残念ながらそうした安心感はありません。それに「コーヒーを買ってきて」とか頼める人がいませんから(笑)、雑用も自分でやらなければいけません。「ああ、こんなことを自分でやるのは研修医のとき以来だ」ということもたくさんありますよ。僕はそうした一つひとつが逆に新鮮でしたが、「そんなことはごめんだ」という人は小さな病院は向かないかもしれませんね。
でも、そんなことを上回るやりがいがあります。「こんなふうにやりたい」という意見が自由に言え、新しい試みにもどんどんチャレンジできる。自分たちの情熱が反映されやすいんですね。
今は看護師の指導に力を入れています。僕が部長を務める科は着任と同時に新設された科なので、看護師にも戸惑いがあるんですね。だからまず自分でやってみせて、お願いできることは次からやってもらうようにしています。マニュアルを作ったり、カンファレンスを開いたりもしていますよ。すると、全員ではありませんが、やる気になってくれる人がいる。そうした人の成長ぶりを見るのは楽しいし、やりがいを感じますね。
現在の職場は居心地がよく、ストレスが全くたまらない。みんなで力を合わせて、自由にのびのび医療ができている感じがします。これまでの医師人生の中で今が一番充実しているかもしれません。