上司の死をきっかけに医局を出たが、次の職場探しは常勤医ではなく、非常勤医の案件を探した。それは自らの“婚活”を優先するためであり、お見合いの仲人さんが発した「ひと言」がきっかけだった。


井上尚子(仮名)さん
 私立医大を卒業後、母校の眼科に入局。教授の早世を機に医局を離れ、内科に転向。結婚するにはキャリアを積むよりバイト医の方がウケがいいという考えから、総合病院の眼科や内科、健康管理センターでの健診バイトなどを続ける。30歳を過ぎたころからバイト医に物足りなさを感じ、やりがいと安定を求めて2年前から常勤医に。30代前半、独身、両親と3人暮らし。

——医局を離れたきっかけは?

 直属の教授が47歳の若さで亡くなりまして。ほかにも眼科の医師の急逝が重なりました。当時私がいた眼科はとても忙しく、このまま忙殺されて上司の二の舞になりたくはないと思い、医局を離れて内科に転向しました。

——その後の勤務先はどのように見つけたのでしょう。

 インターネットで検索して、医師紹介会社に登録しました。そちらから、非常勤で働ける病院を紹介してもらっていました。

——なぜ、非常勤を条件にされたのですか?

 私の出身地方では、私が医師になりたてのころは「お見合い」で結婚する人が意外と多く、昔ながらの世話好きな仲人さんも健在でした。そうした仲人さんから「バリバリ働かない女医さんの方が、お見合いには向いているのよ!」と聞いていたので、非常勤を条件に探すことにしました。その当時は、時給制の非常勤医の方が収入が高かったことも理由の1つです。

——いわゆる“婚活”を優先されたわけですね。

 ええ、そうですね。実際、お見合いの件数はかなりの数ありました。よくあった話としては、親が病院を経営しているのに、子どもが1人も医師免許を持っておらず、跡継ぎを探しているというケースですね。その場合、お見合い相手の方はかつて医学部を志したものの叶わなかったり、途中で挫折していたりしてコンプレックスを持っている人が多く、話を聞いているとつらかったです。

 また、男性医師とのお見合いもよくありましたが、こちらは逆にプライドが高く、性格的に問題がありそうな人が多くて…。なので今は、違う世界の話が聞けて楽しいので、異業種の人がいいかなと思っています。でも、以前お見合いした方にも「女医さんと結婚したら尻に敷かれそう…」と言われたことがあり、なかなか難しいものです。結婚相手を探そうと思って探しているうちは、巡りあえないものなのかもしれません。

——非常勤での勤務先はすぐに見つかりましたか?

 そうですね。当時は眼科や内科のアルバイトは引く手あまたでした。先輩や上司からほかの病院に誘われることがあったり、医師紹介会社からもよく連絡がありました。医師紹介会社を利用しているうちに担当者と親しくなり、勤務先を探していない時でも連絡を取り合っていましたね。一時期、体調を崩して休養していたことがあるのですが、その時も「そろそろ働きたいのだけど、まだ体力に自信がない」と話すと、「では、健診の仕事はどうですか?」といって、健診のアルバイトを紹介してくれました。

 健診のアルバイトは時給も高く、1万円程度でした。平均すると1日5時間、20日ほど勤務していましたから、収入は結構な額になりましたね。そして、法人の健診を担当するうちに、産業医の資格を取得しました。ある企業から誘いを受けたのですが、メンタルケアが主だったことと、提示された年収が1千万円未満だったこともあり、辞退したこともあります。