派遣された関連病院で先輩医師からいじめに遭い、うつ病を発症。医局を離れ、〝真っ当なレール〟を外れる。それでも自ら医師としての道を切り開くべく、産業医としてのキャリアをスタート。しかし、そこにも思わぬ落とし穴が待っていた…。

江頭哲史（仮名）さん
1993年に地方の医科大学を卒業後、出身大学外の医局へ入局。関連病院に派遣されたが、うつ病を発症。わずか3年で医局を離れる。その後、知り合いのツテで診療所などに勤務。内科や整形外科を担当する。その後、認定産業医の資格を取得。医師紹介会社を利用し大手企業へ転職するも保健師と衝突、約9カ月で退職に至る。現在は、リハビリテーション医としてベッド数約100床の一般病院に勤務。40代、妻と子供1人の3人暮らし。

——わずか3年で医局を離れることになった経緯を教えてください。

　私は出身大学の医局ではなく、別の大学の心臓血管外科医局へ入りました。その医局を選んだのは、「ここならしっかり研修できそうだ」と思ったからです。実際、教授はたいへん好意的で、「違う大学の出身だからといって区別せず、同じように扱うよ」と言ってくれていました。

　しかし、入局して3年目に赴任した関連病院で、先輩医師からひどいいじめに遭ったんです。その人は医局の中でも若手の実力者で、私はその先輩のすぐ下につきました。いつごろからだったでしょうか、患者を私にまわしてくれなかったり、ちょっとしたミスを大げさにつつかれたり、子供じみた嫌がらせが続くようになりました。時にはみんなの前で罵倒されることもありました。私だけ他大学の出身でしたから、「自分たちの縄張りによそ者が入ってきた！」という感覚だったのかもしれません。

　それでも、しばらくは我慢して仕事を続けていたのですが、心が耐えきれずにうつ病にかかってしまい、その医局を辞めざるを得ませんでした。先方としては「健康上の理由なら仕方ないですね、どうぞお辞めください」って感じで、あっさりとしたものでした。

——その医局を辞めた後はどうされたのですか？

　大学の先輩の紹介で、ある診療所に勤務することになりました。私自身、もう心臓血管外科への悔いは残っていませんでしたから、はっきり言ってどこでもよかったんです。その診療所ではプライマリケアと健康診断、身体検査が担当で、内科的なことから整形外科的なことまで、何でも診なくてはいけなかったので、まだまだ経験の浅かった私にはとても勉強になりました。

　どんな理由であったにせよ、自ら医局を飛び出してしまったからには、自分のキャリアは自分で切り開いていかねばなりません。専門医の道も閉ざされてしまいましたが、それでも何らかの専門性を高めようと考え、2001年に認定産業医の資格を取得しました。これなら今やっている勤務内容にも近いし、自分の能力に見合ったやりがいのある仕事ができると思ったんです。

——産業医への転職活動はどのようにされたのですか？

　インターネットで探した医師紹介会社を利用しました。産業医で希望を出していましたが、そう簡単に席が空いているわけはないので、健診専門施設など、もう少し対象範囲を広げようかなと思っていました。でもその矢先にある大手企業の案件を紹介され、話を聞いてみると何と年収は1400万円。これほどの好条件はめったにありませんから、二つ返事でOKしました。