その療養型病院は特定医療法人だったのですが、理事長は医療畑の人間ではなく、しかも、医療以前に経営すら分かっていないような人だったのです。幸い、その地域は過疎化が進んで高齢者が多いのに医師は少なく、公立病院もベッド数を削減しているような状況だったので、黙っていても患者さんは大勢来るという状況でした。そんな病院を辞めるきっかけになったのが、東日本大震災、そして医療事故でした。

 東日本大震災による建物などの被害はそれほどありませんでしたが、停電に見舞われました。災害や事故対策については、震災前から理事長と話し合ってきたものの、全く対応が進んでいませんでした。非常用電源は1000万円も出せば準備できると言ったのに聞き入れず、そのくせ身内の業者には、3000万円もかけて内装をリフォームさせていました。震災時には結局、バーベキュー用の電源をレンタルして急場をしのぐことになりました。

 保健所からは、最低3日分の非常食は備蓄しておくよう、普段から指導されていたのに、それもできていませんでした。震災の後は、患者さん用の食料をあちこちから何とかかき集め、職員には私の自宅にあった干しいもを配ってしのぎました。そんな状態で電気が通るまでの3日間を過ごしたのですが、患者さんが体調を崩さなかったのが救いでした。

 医療事故を起こしたのも、理事長が採用した地元出身の医師でした。この医師は、以前にも地元で医療事故を起こしており、しばらくほかの地域で勤めてから、地元に戻ってきていました。もちろん、どんなに注意していても、医療事故を起こす可能性は誰にもあります。ただ、その医師の場合、直前まで勤めていた他地域の病院を、解雇同然の状態で辞めていました。日頃の仕事ぶりにも問題があったのではないか、と思われる状況だったのです。もちろん地元の医師会はそのことを承知しており、「何であの医師を採用したんだ」と言われました。しかし、医療にも経営にも疎い理事長は、そうした事情も知らなかったのです。

 震災への備えも医師の採用も、病院にとっては極めて大事なことなのに、あまりにもずさんなかじ取りしかなされていないことに失望と大きな不安を覚え、私は2度目の転職を決意したのです。

——現在の勤務先を決めたポイントは?
 現在の勤務先は認知症専門病院です。医療過疎地域で4年間、高齢者を診てきた経験が生かせるのではと考えて選びました。認知症治療には、内科や精神科などさまざまな立場の方が関わりますが、それぞれ視点や方法論が違うので、全体としてバランスの偏った治療になる恐れがあります。そんなとき、自分の全身管理の知識や経験が役立てばと思っています。まだ赴任して間もないので、今回の選択が吉と出るか凶と出るかは分かりませんが、スタッフが熱心な方ばかりなので、少なくとも2年間はここで様子を見るつもりです。

——これから転職を考えている医師に、アドバイスをお願いします
 今後は医師の世界でも、医局を頼らず自分で転職先を探す人が多い時代になるでしょう。医師紹介会社を利用するケースも多くなると思いますが、会社は紹介する病院の環境や条件を提示してはくれても、その実情までは深く把握していないことが多いものです。実は、それは紹介会社に限ったことではなく、先方の病院の理事長や院長などと直接話をしても分かりません。なので、安易に面接を受けてしまうと、実情もつかめていないのに、断りづらくなるだけ、ということもあります。

 その病院のことを知るために一番いい方法は、実際に勤めている医師やスタッフ、辞めた医師に話を聞くことです。勤めている人のモチベーションがどこにあるのか、また、辞めた理由は何なのか。特に、人が短期間で入れ替わる病院は、何か問題があるはずです。年収が相場よりも高いときは、そうしないと医師が集まらない病院という見方もできます。

 論文を書いている医師であれば、過去や現在の勤務先をたどることは比較的容易です。また、最近はFacebookなどのSNSを活用している医師も多いので、病院名をキーワードに検索してみるのもいいでしょう。取り合ってもらえるかどうかは分かりませんが、アプローチしてみる価値は十分あると思いますよ。