出産後、産休・育休を終えて職場復帰するも、仕事と育児の両立に悩んだ。周囲は子育てに理解があるが、それでも気兼ねしながら仕事をせざるを得ない。早く帰れることはありがたいけれど、手術が必要な患者などを担当できず、やりがいがない——。働く時間は短くても、誰に引け目を感じることなく、かつ医師として腕を磨ける場所を求めた結果、行き着いたのは不妊治療のクリニックだった。


吉村久美(仮名)さん
1998年に大学を卒業後、出身大学の医局に入り、大学病院や関連病院で約10年間勤務。この間に結婚し、第1子を出産。産休、育休の後に復職するが、間もなく第2子を妊娠、再び産休へ。第2子妊娠中の2007年、医局には知らせずに、不妊治療を手掛けるクリニックで非常勤医として働き始める。11年、同クリニックの常勤医となったのを機に、正式に医局から離れた。30代、夫と一女、二男の5人暮らし。

——第1子出産後、産休、育休を経て職場復帰されたのですね。
 関連病院で勤務しているときに1人目の子供を出産し、産休と数カ月の育休の後に復職しました。医局側の配慮で「子供が小さいうちは当直免除。夕方5時までの勤務」が認められていました。それでも、子供の保育園が病院から遠く、育児を手伝ってくれる家族が近くにいなかったので、送り迎えや急な発熱のときなどはとても大変でした。

 そのうち、物理的、体力的な面以上に、精神的にもつらくなってきたんです。

 夕方5時に帰れるのは非常に助かるのですが、そのために手術が必要な患者さんを担当できなくなりました。手術が5時を回るケースもありますし、術後にも何があるか分かりませんからね。もちろん、これは配慮してもらったことによる当然の帰結なのですが、私もまだ30代前半と若かったこともあり、「これでは物足りない」というのが正直な気持ちでした。

 それに、周囲にいつも引け目を感じながら仕事をするのが苦痛になってきました。周囲の理解はあった方だと思います。ただ、病棟勤務の看護師さんには子供がいても夜勤もこなしてバリバリ働いている人もいました。その中で1人だけ早く帰るのは気まずく、後ろめたく感じていたんです。

 同じ病院の別の診療科に、私と同じく子供を持つ女性医師が2人いたのですが、その人たちが陰でいろいろ言われているのも聞こえてきて……。「私も同じように言われているのかもしれない」と思うようになりました。

——それで転職を考えるようになったのですか。
 ええ。復職してから半年ほど経った頃からでしょうか。「引け目を感じながら働くのではなく、たとえ短い勤務時間でも堂々と仕事ができ、他の医師と同等の仕事ができる職場がいい」と考えるようになりました。

 そんなとき頭に浮かんだのが、不妊治療の分野でした。私が勤務した大学病院やその関連病院では特に不妊治療を標榜してはいませんでしたが、不妊に悩む患者さんを診察する機会はありました。私はそれまで、婦人科の良性腫瘍や悪性腫瘍の治療を中心に携わってきたので、不妊治療の知識や経験は乏しく、それこそ内科の患者さんを診るような具合で、教科書だけが頼り。「いつかきちんと勉強したい」という気持ちがあったんです。