それでも、転職の意志は変わりませんでした。病院側が「ぜひ雇いたい」と思う人間になればいい、と思い直しました。一番求められるのは何か。技術か人柄か肩書きか…。とはいえ、人柄は変えようがないので、まずは技術を磨き、資格を取得すべく勉強をスタートしました。
まず技術ですが、内視鏡と超音波、この2つを自在に使えるようになることを目標としました。とはいえ、診療所には内視鏡自体なかったし、超音波もそれほど件数がこなせるわけではありません。そこで超音波については、自分の体を使って勉強しました。内視鏡は、研修に通っていた病院でもできるのですが、常勤でもない自分に与えられる件数は少ないのです。そこで何かしらの理由をつけて、医局から近い関連病院を紹介してもらい、経験を積みました。
さらには本を読んだり、自分で腸の形に似せたモデルを作って練習したりもしました。予習をしてから病院での実践に臨むと、すっと頭と体に入ってくるんです。この頃は今までの人生で一番勉強したと思います。
次が肩書きです。専門医の資格を取得するには、指導医に研修終了証明書などを書いてもらわなければなりません。私の場合、研修先の指導医の先生に書いてもらうほかない。でも、いきなり頼んでも、外様の人間に、ほいほい書いてくれるわけがないですよね。となると、「この大学の人間ではないけれど、こいつはよく頑張っているな」と認めてもらうほかありません。
そこで、決められた時間以外の夜や休みの日も研修先へ行き、時間の許す限り、雑用も含めすべてやりました。それがよかったのか、研修期間が終わった時点ですぐにサインをもらうことができ、最短期間の卒後6年で「総合内科専門医」「消化器病専門医」を取得しました。その研修先には、診療所での業務と並行して週4日ほど通っていましたが、自分の中の目標がはっきり定まっていたので、つらくはなかったです。最終的には「うちの医局に来ないか」と誘っていただいたのですが、もう縦社会はこりごりだったし、自分の腕一本で勝負したいと思っていたので、丁重にお断りし、今の勤務先に入りました。
——現在の勤務先はどのように見つけたのですか。
結局、医師紹介会社は使いませんでした。義姉が、今の勤務先の理事長が懇意にしている方と知り合いで、そのツテで入ったんです。間に入った方が私を推薦してくださったため、とてもスムーズに話が進みました。私の場合、エージェントではなく、親しい知人から紹介されたということで信用度が高かったようです。特に地方においては、人脈やコネは大事だと思いました。
病院側と話をする時にはできるだけ妻に同伴してもらいました。先方はいつも3人ほどで出てくるので、こちらが1人だと分が悪いからです。給与に関しては、最初、非常に低い金額を提示されたのですが、近隣の医療機関の給与を比較対象として提示し、再検討をお願いしたところ、かなり上がりました。結果、年収は前職より400万〜500万円アップし、家族と過ごす時間も増えました。
最後には医局の上司も、僕が何年もこの地域のプライマリケアを一手に引き受けてきたことを認めてくれ、すんなり辞めさせてくれました。今は組織のしがらみもなく、自由に色々なことにチャレンジしています。現在力を入れているのは、摂食・嚥下機能の評価や、胃瘻の造設・評価ですね。最近、院内に摂食・嚥下の委員会も立ち上げたんですよ。今後も自分の医師としての技術を最大限に生かし、地域医療に貢献していきたいと思っています。