——なぜ後悔を?
C病院へ移る際に、「B病院と同等以上の待遇」を約束してもらいました。具体的には、週4日勤務、消化管内視鏡検査と治療だけを担当し、当直はしないこと、年俸アップなどです。実際には週5日勤務になりましたが、当初はそれも不満には思いませんでした。
でも転職から1年後、院長の大学時代の同期という循環器内科医が副院長として着任してから、状況は変わりました。1日に多くの入院患者を割り振られたり、消化管疾患以外の患者を担当させられたり、といったことが当たり前のように行われるようになったのです。院長に「約束が違う」と訴えたところ、改善するよう副院長に指導してくれたのですが、副院長はこれを無視。副院長には何度か、直接抗議をしましたが聞く耳を持たず、威圧的な言い方で勤務条件を逸脱した業務を強要される状況が続きました。院長、副院長、事務長と4人で話し合いをし、当初の勤務条件を確認したのですが、それでも、副院長の態度は変わりませんでした。
4者での話し合いから数カ月後、私は副院長室に呼ばれ、副院長が命じた業務を担当しようとしないことに対する不満をぶつけられました。「それは当初の勤務条件には無い」といくら言っても、議論が平行線をたどったため、「院長と相談する」と言って副院長室を出ようとしたところ、副院長に頬を殴打されました。驚いた私が「傷害事件で訴える」と言ったところ、さらに激高した副院長は、私の胸ぐらをつかんで、部屋の鍵を閉めたのです。また殴られる!と感じ、大声で「警察を呼んでください!」と叫びました。すると、副院長の手が離れたので、鍵を開けて逃げました。
その足で、院長室に行き、院長と事務長に経緯を報告しました。院長からは、「副院長に事情を聞くので、医局で待機するように」と言われました。しばらくすると、再び院長室へ呼ばれて、暴行の事実を確認したうえで、隠蔽などはしないと言われました。そこで私は、他の病院で顔面レントゲンと頭部CT検査を受け、顔面打撲で全治5日間との診断書を発行してもらいました。警察にも被害届を提出し、事情聴取を受けました。
事件の翌日、私は院長と事務長と面談し、休職を願い出ました。理由は「副院長に対する恐怖と精神的苦痛」です。院長は「副院長はとんでもないことをしてくれた」と言い、休職を了承しました。その後、事務長からお見舞いの電話があったのですが、その際に、「副院長の処罰があるまでは、復職は難しい」旨を伝えました。
ところが、それから1週間後、耳を疑うような話がありました。再び事務長から電話があり、「副院長が暴行の事実を否認しており、目撃者もいないために病院側としても認められず、副院長を処罰する予定もない」というのです。休職に関しても、院長の了承を得たのに、「許可した覚えはない」とされ、私の休職中、その穴埋めに雇った医師の給与も、一部請求するとまで言われました。
もう当人同士の話し合いではらちがあかないと思い、それ以降は弁護士に交渉を任せましたが、それでも病院側は暴行の事実を認めません。私が退職を願い出ても、「懲戒処分にするので、すぐには認められない」という返答がありました。今は弁護士に依頼して、訴訟の準備をしているところです。
——その後はどうなったのですか?
給与が支給されないまま3カ月が経ち、このままでは生活にも困ると思い、ある総合病院の理事長を務める後輩に連絡しました。事情を話すと、幸い「それは大変でしたね、ぜひうちに来てください」と言ってくれました。検査が少なく、通勤にも時間がかかるのがネックですが、他の後輩医師もおり働きやすいため、当面はここで働こうと思っています。
——転職を考えている医師に、アドバイスをお願いします。
私は当初、大学にずっといるつもりでした。大学のそばにマンションも購入していたくらいです。なので、大学を離れることになったときは、やはり大きな不安を感じました。ただ、専門医や指導医など、ほとんどの資格は取得済みでしたから、何とかなるだろうとは思っていました。転職を考えるなら、資格はやはり持っていた方が有利です。募集要件に専門医を挙げている病院も多いですし、給与に資格手当もつきます。
また、医師紹介会社を利用する場合は必ず契約書を交わしますが、知人などの紹介の場合も、勤務条件は必ず書面にしておくべきです。私は今回のトラブルに巻き込まれて初めて、それを痛感しました。勤務条件について交わしたメールなどは保管してありますが、裁判でそれが証拠として認められるかどうかは微妙なところです。待遇についてのこうしたトラブルを回避できるのは、医師紹介会社を利用する大きなメリットかもしれませんね。