——C先生からはどんなアドバイスがありましたか?
一番心配していたキャリア面については「自分の人脈で面倒を見るから大丈夫」と言っていただきました。勤務については「このまま続けて心身を壊してしまっては取り返しがつかない、転職先も紹介できる」と言っていただき、「C先生がバックアップしてくださるなら、辞めても何とかなるだろう」と安心することができました。実際、その2週間後には現在の勤務先の院長と会食の席を設けていただき、転職を決意しました。
——大学側にはどのように伝えたのですか?
まず、教授に「病院は辞めます」と伝えたところ、「病院を辞めても、大学院を追い出すようなことはしないよ」と言われました。その後、医局長に退職の意思を伝えると、「有給を全部使っていいから、頭を冷やして来い」と慰留されたのですが、休みを取ってゆっくり考えたものの、決意は変わりませんでした。
——転職先のクリニックの勤務条件はいかがでしたか?
勤務条件については、事務長と話をしました。勤務は週4日で、大学院での研究や学会にはなるべく参加したいということだけ、最初に伝えておきました。こちらがお願いした立場だったので、それ以外のことにはあまりこだわりませんでした。
ただ、提示された給与が大学病院よりも低かったので、せめて現状を維持したいと思い、交渉を試みました。というのも、インターネットなどに掲載されていたクリニックの求人情報の給与よりも安かったので、交渉の余地があると思ったのです。すると、割とあっさり、時給6500円から8000円にしていただけました。
当直は週に1度、休日もほぼ暦通りに取れるようになり、転職して数カ月もすると、体調は本調子に戻りました。1年たった今では、かぜも引かなくなりましたね。大学病院で心身に不調を来したのは、明らかに過労と睡眠不足が原因だったと思います。自分が抑うつ状態になったことで、患者の心理が分かるようになりました。
——最後に、転職を考えている医師にアドバイスをお願いします。
心理学や行動経済学などでよく言われることですが、人は現在持っているモノの価値を3〜4倍高めに見積もる一方で、未来の利益は3〜4割割り引いて考える傾向があるそうです。転職においても現状を維持する方向にバイアスがかかり、将来に不安を感じるものだと思うので、真剣に悩んだり迷ったりするくらいなら転職した方がいいと思いますね。最終的には、医師免許と何かを諦める覚悟があれば、何とかなるはずですから。
ただし、その際には、最悪の事態になった時でも自分が納得できるBATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement、代替案)を用意しておくこと。医局を離れることのリスクやデメリット、転職先でのメリットを冷静に分析し比較しておくことが大切でしょう。私の場合は、C先生の客観的なアドバイスとバックアップがあったので、転職に踏み切ることができました。時には、人に頼るのも必要かもしれません。自分と同世代の若手医師の場合は、医学部の同級生や研修医時代に知り合った先輩医師との付き合いを大切にしたり、学会で詳しく話を聞いてみたいと思った先生に個人的に会いに行ったりと、縁をつなげる方法は色々あると思います。