質問
総合病院の外来に勤務しています。医師からがんと告げられ、不安や混乱を来す患者さんにたびたび遭遇します。中には自暴自棄になってしまう人もいるのですが、看護師としてどう対応すればいいか分かりません。

回答者
梅田 恵([株]緩和ケアパートナーズ代表取締役、がん看護専門看護師)


 日本では、1984年以来がんが死因の1位です。ドラマに出演するがん患者の多くは、若く、がんが治らず進行し、さまざまな苦痛や悲嘆を体験し、命を落としてしまいます。このようながんについてのドラマチックな描写が、「がん=死=絶望」と多くの人々が考えてしまう要因となってきたのではないでしょうか。ナースも市民の一人ですので、一般の人々と同じ感覚でがんをとらえているかもしれません。

 このような社会が持つイメージは、がん医療に大きく影響します。具体的には、診断や治療開始の遅れ、治療選択の誤りにつながり、結果的に患者さんが大きなデメリットを受けることになってしまいます。質問者のように、治癒の可能性を否定されたわけではないのに、がんと診断されただけで不安や混乱を来し、自暴自棄となってしまう患者さんの反応に困った経験や、「がんの診断を受けた患者さん」というだけで、「どう対応していいのか分からない」「とっつきにくく声がかけにくい」と感じた経験のあるナースは少なくないかもしれません。

早期がんの5年生存率は9割
 しかし、そうした「社会的イメージ」は事実とは異なります。日本ではがん患者の60%以上、また1期(早期)に見つかれば90%以上が5年以上生存しています。従って、がんの診断がすぐに死に直結することは少ないのです。それよりも、治療が継続することや、がんの再発・転移の不安に向き合うことを余儀なくされます。がんの診断を受ける前の「自分はがんにはならない」「がんと自分は関係ない」との思いがくつがえされ、がんとの向き合い方やがん診断の意味、生活への影響など、徐々に現実として迫ってくるようです。

 患者さんがもともと持っているがんについてのイメージは、がんの診断や治療の選択に影響してきますので、できれば、心配がありがん診断を受けに来られた方や結果を待っている方のがんに対する思いやイメージをナースが聴くことが、重要なケアとなります。私自身は、できるだけ受診されるまでの体験や医療、そしてがんについてのイメージを聴くようにしています。一般的に、診察ではどうしても医師からの説明が主となり、患者さんやご家族が話をすることを遠慮や緊張ではばかられてしまいます。リラックスして医師の話が聞けるようにするためにも、患者さんから発信してもらえる環境を作るよう努力します。コミュニケーションは双方向性です。医療者から一方的な説明や説得になっている時には、患者さん自身に焦点が当たるよう工夫しています。

図1 性・年齢階級別にみた主な死因の構成割合(2011年、厚生労働省ホームページより)

 なお、がん罹患率は60歳ごろより急増します。がんは年齢を重ねることが大きなリスク因子となります。ただし、高齢になるに従いがんが死因となる割合は減少してきます(図1)。がんを抱えながら生きている高齢者が、がん以外の要因で最期を迎えられることも珍しいことではありません。災害対策や事故対策に余念のない日本ですが、体験する可能性の高い「がん(という病)」や「老い」に対する備えが甘すぎるように感じてなりません。社会的なイメージも手伝って、「考えたくない」「自分はがんにはならない」と信じたいとの思いから、がんの診断を受け治療を選択する段階へのギャップが大きすぎるのです。できれば、がんの診断を受ける前、義務教育や市民向けの教育としてがん予防だけでなく、がんになった時のことを見越した教育が必要ではないかと思います。命の授業などが行われるようになってきています。このような取り組みがもっと広がることが期待されます。そして、早期からの緩和ケア、つまりがんの診断時の看護サポートとつながっていくことで、大きな不安や恐怖は緩和されるのではないかと思います。