——次の職場をどのように探したのですか?
以前、コンピューターの仕事をしていたときに親しくなった某大学の先生から、「今度、医療情報の扱いに関する新しい研究をスタートするのだが、良かったら来ないか?」と誘われていました。医師としての経験とIT技術者としての経験の両方を生かせる仕事だと思いましたので、この研究にぜひとも参加したいと思い、誘いを受けました。ちなみに、その先生は、私が本当に医局を辞めてくるとは思っていなかったようで、「辞めた」と言ったら非常に驚いていました。
その後、その研究を通じて知り合った人たちと一緒に、医療IT関連の会社を立ち上げて、再び経営者となりました。しかし、小さな企業なので、なにぶん収入が安定しません。しかも、この時期に私が結婚したこともあり、安定した収入が欲しいと思うようになりました。そこで、パートタイムで医師の仕事をしようと思ったのです。とにかく安定した収入が欲しかったので、「どこでもいいから、すぐに働きたい」という気持ちでしたね。複数の医師紹介会社に一括登録できるネットサイトから応募し、紹介会社からのオファーを待ちました。
現在は2カ所の病院で週2回診察をし、1回の当直をしています。1カ所は医師紹介会社経由で、もう1つは1カ所目の病院から紹介されました。現在、医師としての月収は80万円ほどでしょうか。
——医師紹介会社はどのような印象でしたか?
大体、喫茶店などで会って話をするというパターンでしたが、1回の面談につき1つの病院しか紹介されませんでした。複数の紹介会社の方とお会いしましたが、2つ以上の病院を同時に紹介されることは1度もなかったですね。また、印象としては、「条件が悪くて、みんな行きたがらない病院から紹介しているな」という感じがしました。どこの会社も最初から好条件の病院は出してきませんでしたから。
——これから転職活動をされる方に何かアドバイスはありますか?
収入や勤務時間などについては、どの医師紹介会社でもある程度伝えてくれます。そこでの食い違いはありませんでしたが、こちらからの細かい希望が伝わっていないことが多々ありましたね。ある担当者には、「私はエコーが得意なので、それができるところを希望」と申し出ていたのに、そもそもエコーの機器がない病院を紹介されました。担当者によって医師という仕事の理解度や、こちらの要望をどれくらい分かっているかなどの差が大きいので、その見極めは大事でしょう。
——具体的にどのように見極めれば良いのでしょうか?
医師の勤務体系には、「常勤」「非常勤」「スポット」という3つがあります。いきなり常勤の案件を探してもらうのではなく、「何月何日の外来」とか当直などのスポット・短期アルバイトを探してもらうのが得策だと思います。そうしたこちらの要望からどんな病院を紹介してくるかで、どれくらい意向を理解しているかはもちろん、担当者の持つ情報量や人脈が分かります。まずはスポットで、自分に見合ったところを紹介してくれた紹介会社と付き合っていけばいいと思います。長期で契約してしまうと、そう簡単には辞められませんから。
——今後も「医師」と「経営者」を両立させた働き方を続けていく予定ですか。
現在の状況をありていに言えば、週3回の医師のバイトで生計を立てつつ、好きなIT関連の仕事を道楽でしているという感じです。正直、好きな仕事だけをしていたのでは食べてはいけません。でも、常勤で働いていたころにくらべ、今の方が収入も大きく、プライベートの時間を持てています。現状には不満は有りません。
でも、フリーターが、こんなにちやほやされるなんて、派遣切りが進んでいる今の世の中で、なんだか、不自然だと思うんです。昔から、パートタイムで働く医師の時給は、常勤に比べて高かったと思うのですが、その分、社会的な信用という面では著しく低いものでした。今は、医局の崩壊でぽろぽろ人が辞めてしまい、多くの病院で医師が足りない。だからその穴を埋めるフリーの医師が歓迎されていますが、おそらく、これは一過性の状況で、一種のバブルみたいなものなのだと思っています。こんな恵まれた状況が長く続くとは思えません。
今後の医療業界がどういう方向に向かうか、状況を見ながら、今後の方向性をじっくり考えていきたいと思っています。