質 問

 私は臨床が好きなので、ずっと臨床だけをやっていきたいと思っています。専門医も取得したし、医局に残る理由はないように思え、最近では転職を考えるようになりました。それでもやはり迷いはあります。本当に医局を離れても大丈夫でしょうか?(卒後8年目、33歳男性、内科医)

回 答
離れてもいいが、指導環境が整った病院を選べ

 最初に一つ、確認させてください。先生はなぜ医師になったのでしょうか? 「どうして今、そんなことを聞くんだ」と思われるかもしれませんが、転職を考える上でこの問いはかなり大切です。医師を志した原点に立ち返れば、今後のキャリアが見えやすくなるからです。

 まず、自分はどんな医師になりたいのか、どういう医療をやっていきたいのか、どんな人生を送りたいのかを考えること。これらを踏まえて、「医局に残るか、転職するか」、さらに「転職するなら、どんな病院に行くか」を決めていくべきです。

 もし「患者さんを助けたくて医師になった。だから臨床がやりたい」という思いがはっきりしているのであれば、確かに医局を離れてもいいかもしれません。転職先の選択肢としては、市中の総合病院もしくは中小病院が適しているでしょう。プライマリケア分野に興味があるなら、開業したりクリニックに勤務するという手もあります。

 質問者の先生は卒後8年目とのことですから、同じ診療科に複数の医師がいる市中の総合病院をお薦めします。他の医師のやり方を見ながら自分の技術レベルを確認したり、「あの人は自分より三つ年下なのに、あんなことができるのか」と刺激を受けたりできるからです。

転職先には思わぬ落とし穴も
 さまざまな大学の出身メンバーが集まっているような市中病院では、思わぬ落とし穴もあります。「医師の裁量権」という便利な言葉の下、医師同士で技術面の指導や指摘などを行う雰囲気があまりないからです。全ての病院がそうではありませんが、そうしたケースは実際には少なくないのです。

 たとえ周囲が「あれ、大丈夫かな?」「怪しいな」と思っても、遠慮があって「何か意図があってやっているのだろう」「○○大学方式はそうなのかもしれない」などと解釈し、あえて指摘しないことが多いようです。そう思われている当の本人は、不安な気持ちでいっぱいなのですが、プライドが邪魔したり上司がとっつきにくかったりして、素直に聞けないでいることも多々あります。

 特に、肩書きがない同年代の医師同士で出身大学が別となると、見て見ぬふりをする傾向が強いかもしれません。そしてアクシデントがあって初めて、問題が明らかになるというのが、私が見聞きする中でよくあるパターンです。

 その点、医局のような同門の組織はよくできていて、先輩後輩の関係がしっかりしているので、後輩は分からないことを先輩に聞きやすいのではないでしょうか。

 医局の人間関係や職場環境は、自分が指導する側に回ったときにも利点があります。医師は「技術職」ですから、当然知識と経験が必要ですが、教えることが自分にとってもプラスになることが多いのです。以前、私がお会いした先生も、「後輩に教えることを通じて、自分の技術レベルを確認したり、維持したりしている」と話していました。

 転職に当たっては、先方の病院の指導環境を十分に確認した方がいいでしょう。臨床をやりたいという思いが明確なのだから、遠回りする必要はありませんが、医師同士の結び付きや面倒見の良さといった観点から、医局の意義を改めて見直してみるのもまた大事なのではないでしょうか。