質 問

 医師になって15年。子どもが大きくなり、今住んでいる地域に腰を据えたいので、そろそろ医局を離れようと考えています。専門医や指導医の資格は取得していますが、私のキャリアで希望する転職先に行けるのか、不安な気持ちもあります。紹介会社のエージェントや採用する病院側は、どんな観点で医師を評価しているのでしょうか?(卒後15年目、40歳男性、消化器内科医)

回 答
医局の在籍年数、退局後の転職回数が重要なポイント

 私も医師の転職を支援するエージェントの仕事をしていますが、転職を希望する先生の技術レベルを、医師ではないエージェントが評価できるわけではありません。採用側の病院にしても、例えば、同じ診療科出身の院長や上司に当たる診療科長であれば分かりますが、既にその診療科の医師が辞めていて、他科の先生が面接を実施せざるを得ない場合などは、正確な判断ができないこともよくあります。

 では何をもって医師を評価するかというと、「経歴」と「資格」、あとは「人柄」です。この中でも分かりやすいのは、やはりこれまでの「経歴」でしょう。

 医師の履歴書は非常にシンプルですよね。大部分の人が○○大学卒業、△△大学入局、退局、××病院就職…といった感じになると思いますが、我々エージェントが履歴書で見る第一のポイントは、医局に何年在籍していたかです。ここが3年なのか、5年なのか、10年もしくはそれ以上なのかが、評価の上でとても重要なのです。

 まず3年程度で退局している場合は、マイナス評価になります。普通は、医局に入ってから一人前になるまでに少なくとも5年以上かかるため、3年程度の在籍年数だと不十分と見なされるのです。

 ただし、マイナスを挽回できるケースもあります。医局を辞めた後、研修がしっかりできるような、世間的に名前の売れている総合型の基幹病院で経験を積んだといった場合です。こうした経歴であれば、医局に短期間しかいなかったというマイナス面が解消され、むしろプラスの評価に転じるかもしれません。

 一方、「医局を3年で辞めた後、(病床数が少なく、知名度や実績もない)個人病院に3年いました」といったケースは、正直なところプラスにはなりません。「医師として6年のキャリアがあります」と主張しても、それより短い年数のキャリアとしか評価されないはずです。

 相談者の先生の場合は、医局の在籍年数が10年以上ありますので、第一のポイントはクリアしているといえます。

転職後、同じ病院に最低でも3年はいるべき
 それ以外の判断のポイントを挙げるとすれば、退局後の転職回数と、それぞれの病院での勤務年数でしょう。「転職しました。でも1年で辞めました」といった経歴だと、良い印象を受けません。できることなら、同じ病院に最低でも3年くらいはいた方がいいと思います。

 以前、こんな先生がいらっしゃいました。履歴書を拝見すると、医局に10年以上籍を置き、専門医や指導医の資格も取得していますが、医局を離れた後、どこの病院でも長続きしていません。それぞれ3カ月、1年、半年で辞めていました。

 こうした経歴だと非常に大きな減点になり、今後、望み通りの転職は簡単ではないと考えた方がいいでしょう。「何が問題なのか? 医局にいる間だって、病院から病院へ頻繁に動くじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、それとこれとは全く別のケースです。

 医局人事はあくまで医局の指示で動くもので、転職ではありませんから、我々エージェントは医局の在籍期間を通算して評価します。一方、退局後は自分の意志で勤務先を決めるわけですから、転職を繰り返している人は「協調性がないのでは」「何か問題があるのではないか」と思われ、敬遠されがちなのです。

 このほか、「1年以上のブランクがある」とか「(楽だから)バイトでずっと食いつないでいた」というケースも、転職には不利に働くでしょう。

 医師の世界のみならず、世間一般でも言えることですが、自分のキャリアを大事に考えるのであれば、短い期間で転職を繰り返さないことです。1回や2回ならともかく、それ以上となると、転職先の選択肢がどんどん狭まります。仮に採用される場合でも、「来てもらってもいいですが、しばらくはバイトの立場で」とか「先生の希望年収は1500万円ですが、1200万円でよければ来てください」と言われるかもしれません。

 前述の転職を繰り返していた先生に対しては、「あと1回同じことをしたら、その後はもう選択肢がなくなりますので、今度の就職活動では少なくとも3年はいられるところを探しましょう。そろそろ腰を落ち着けないと、せっかくの専門医が泣きますよ」と助言させていただきました。

 みなさんの履歴書にはどんな経歴が並んでいますか?