質 問

 医師になって10年目です。非常に腕のいい同年代の医師が、知名度の高い有力病院に転職しました。私も人並みにはできるつもりですが、彼ほど抜きんでた技能はありません。自分自身、そろそろ医局を辞めて転職したいと考えているのですが、実際、彼のように際立った技能がないと、希望する病院への転職は難しいのでしょうか?(卒後10年目、35歳男性、整形外科医)

回 答
一般の病院で引っ張りだこなのは「人柄がいい医師」

 病院経営にとって大事なのは、所属している医師が地域の患者の間で評判になることです。この場合の評判とは、「腕がいい」と「人柄がいい」の2つが大きいと思います。つまり、病院が欲しいのは、「腕がいい」かつ「人柄がいい」医師だということです。

 まず、「腕がいい」とはどういうことなのか考えてみましょう。例えば外科分野で、「○○先生にしかできない」という卓越した技術があるのであれば、それだけで患者を呼べるため、病院から大いに歓迎されるでしょう。ただし、非常に高度な専門技術を持つ外科医が必要不可欠とされるのは、特殊な疾患を扱う病院に限られます。

 もちろん、技術力があるのに越したことはありません。しかし、医療技術が進歩した今、腕の良しあしが患者の生死を大きく左右するような疾患は減っています。例えば、既に術式が確立されている場合、技術力でどれほどの差が生じるかといったら、せいぜい傷跡が大きいか小さいかぐらいで、治るか治らないかではないのが一般的です。

 私は医師の転職を支援するエージェントの仕事をしていますが、病院側の要望で一番多く聞くのは、「人柄がいい先生が欲しい」という声です。特に、ポピュラーな疾患の患者が多い一般の病院の場合、技術より、むしろ人柄の良さが強く求められるのが普通です。

 確かに際立った技術があれば、一般常識が欠如していても転職先は探せるかもしれません。ただ、病院側が他の全てのことに目をつぶれるような特異な技術を持っている医師など、ひと握りしかいないでしょう。つまり、“腕”だけで転職できるわけではないのが現実なのです。

「人柄がいい」とはトラブルを起こさないこと
 では、病院側は面接の際に、医師のどこを見て人柄を判断しているのでしょうか。何も特別に難しいことではありません。人柄がいい人とは、言い換えればトラブルを起こさない人のことです。だから病院側は短い面接時間の中で、一般常識があるか、挨拶ができるか、言葉遣いはどうか、TPOに合わせた服装をしているか、周囲と協調できそうか…、といったところを見ていると思います。

 最初に目に付くのは、やはり身なりや服装でしょう。面接のときに、ボサボサの髪、ジャンパーにセーター姿で、ボロボロのかばんからしわくちゃの履歴書を出す、というような人が、患者の前でパリッとできるわけがありません。面接に行くなら、やはりスーツ着用、最低でもジャケットにネクタイという格好が不可欠だと思います。「そんなの常識じゃないか」と思われるかもしれませんが、意外と知らない先生もいて、私も時々「面接のとき、何を着ていったらいいですか」と聞かれることがあるのです。

 一番困ってしまうのは、ついこちらから「今日、面接があるってご存じでしたよね?」と言いたくなるような格好で現れる人です。面接が急きょ決まった場合ならまだしも、事前に決まっている場合でこれでは、まず先方にいい印象を与えられないでしょう。「今まではこれで良かった」「服装のことなんて指摘されたことがない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは医局人事で動いていたからです。医局から派遣されるときに、面接はしませんからね。

 医師としてのスキルを磨くのは当然ですが、転職を考えているのであれば、今一度、自分自身のマナー、挨拶、言葉遣い、コミュニケーションスキルなどを客観的に見つめてみるといいかもしれません。