質 問

 私は近々、転職を考えています。ただ、今は医局のどこの関連病院も慢性的な人手不足で、私1人が抜けても厳しい状況になることは目に見えています。当然、医局からは強く引き止められると思うのですが、どうしたらスムーズに退局できるでしょうか。けんか別れや、周囲の先生に迷惑をかけることはできるだけ避けたいと思っています。(卒後14年目、40歳男性、小児科医)

回 答
意思表明のタイミングが重要。根回ししてから辞めた方がいい

 確かに現状を見ると、多くの病院で人手が足りていません。医局側も、「退局したい」と申し出てきた医師を「はい、そうですか」と簡単に辞めさせられないのが実情でしょう。ましてや相応のキャリアがあり、既に重要なポジションにいる先生ならなおさらです。

 とはいえ、医局や同僚に迷惑をかけないようにすることばかり気にしていたら、いつまでたっても辞められず、転職の時期を逃してしまいかねません。第一、ずっと我慢して勤務し続けていればモチベーションが下がり、医師としての成長もおぼつかなくなります。やはり、どこかの時期で腹をくくるしかありません。

 さすがに今はひと昔前のように、「逆らったら、二度とこの地域で医者をやれないようにしてやる」などと圧力をかけてくる教授は減っていると思いますが、医局を離れた後も同じエリアで働きたい場合は特に、波風を立てずに辞めるのが賢明でしょう。
 
 では、どう退局を切り出すか。医局の規模やルール、教授のキャラクターにもよりますが、まずいきなり教授に話すのではなく、医局運営の実務を担当する医局長に打診することをお勧めします。

人事が固まってから切り出すのは最悪
 また、スムーズに事を進めるためには、転職の意思を打ち明けるタイミングが重要です。例えば、4月に大きな人事異動があるとしたら、遅くとも1月中旬には新体制が決定していると思います。このタイミングで、「近々辞めさせてほしい」などと言えば、不興を買うのは間違いありません。

 医局の人事異動で組織体制や要員配置が全て決まった後になって「辞める」と言い出すことは、一番嫌がられます。ギリギリの人員でやっている場合、1人抜けるだけで全体を一から組み直さざるを得なくなるからです。

 実際、言い出した時期が悪かったために、教授から強く反対され、既に転職先が内定しているにもかかわらず、取りやめてしまった先生もいます。

 民法上の規定では退職の2週間前までに意思表示をすればいいことになっていますが、一般的な社会常識で言えば、少なくとも3カ月以上前、できれば半年前には言うべきでしょう。

 「実はそろそろ転職を考えています。医局の厳しい事情も分かっているので、今すぐにとは言いません。できたらせめて、半年後の●月末には辞めさせてください」といった伝え方が、穏便なやり方だと思います。要は、お互いの譲れるところまで歩み寄り、落としどころを探る形で提案することです。「辞めたい」と言った後に異動があったとしても、ひとまず承諾して局内にとどまり、その次の人事で医局を出る、というパターンが理想でしょう。

医局内の情報収集も怠りなく
 円滑に転職するためには、医局の状況を十分に把握して、自分の意思を打ち明けるタイミングを探ることも必要です。皆さんは常日ごろから医局の状況に詳しい人とよく話をしているでしょうか? 私が転職の相談に応じていると、局内の事情に疎い先生が少なくないように感じますが、ここは意外に大事なポイントなのです。

 特に、初めに転職を切り出すことになる医局長とは、日常的にコミュニケーションを取っておくことが大切です。ある程度早い段階から、転職の可能性について伝えておけば、それを想定した上で人事を組んでもらえることが期待できます。また、局内の情報収集も怠ってはいけません。ほかに退局予定の人がいることを事前に知らずに、自分の転職の意思表明をしてしまえば、医局にとって最悪のタイミングになり、人間関係にしこりを残すことになりかねません。