質 問

 先日、久しぶりにかつての同僚の医師と会いました。彼は医局を離れた後、フリーランスになり、今は幾つかの病院を掛け持ちしているそうです。話を聞くと、どうも私よりかなり高い収入を得ているようでした。フリーになると、実際そんなに稼げるのでしょうか。(卒後12年目、38歳男性、消化器内科医)

回 答
額面だけなら確かに多いが、見かけの金額に踊らされるな

 確かに額面だけをとらえれば、フリーランスの医師は常勤医より稼げると言えるかもしれません。

 ある程度経験を積んだ医師が非常勤医として1日働く場合、病院や診療科、さらに地域によって差はありますが、5万〜10万円程度の収入は得られるようです。仮に日給8万円で週5日間働くとして、単純計算すれば、1週間で40万円、年間では約2000万円になります。常勤医の年収は平均1500万円ぐらいですから、金額だけで比べれば、フリーの方が稼げるように思えます。

 実際、この金額だけを見て、「フリーになりたい」と転職の相談に来る先生がよくいらっしゃいますが、フリーになった場合のデメリットについてあえてお話ししておきましょう。

 皆さんの中には「フリーって、勤務する日や時間が制約を受けなくて自由なのでは?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし私に言わせれば、フリーの勤務形態ほど時間に関して不自由なものはありません。

いつ仕事がなくなるか分からない恐怖感
 例えば、常勤医の場合、有給休暇がありますが、フリーにはそれがありません。「風邪を引いた」「今日は体調が悪くてつらい」と申し出て、病院を休むとします。その分、収入が減るのはもちろんのこと、病院側にもいい顔をされないでしょう。フリーの場合、数年間、無欠勤でやってきて初めて、「先生はいつもまじめにやってくれているから、今日くらいはゆっくり休んでください」と言ってもらえるのです。ましてや、「長期休暇を取って、海外旅行」などできるはずがありません。それぐらい自由度がないのが、フリー医師の現実なのです。

 もし自分の都合を優先して好き勝手に休んだら、すぐ勤務先の信用を失い、契約を切られてしまうでしょう。非常勤医として働いていた病院に新たに常勤医が来たら、間違いなく真っ先に肩をたたかれます。病院を辞め、新しい職場を見つけるまでに仮に1週間かかったとすると、それだけでもらえるはずだった40万円の収入がゼロになります。不動産収入や親の遺産などの不労所得があって、無理のない範囲で医師業をしている人なら構わないのでしょうが、そんな人はごく一部。大半のフリー医師は、いつ仕事がなくなるか分からない恐怖感を抱きながら、働き続けなければならないのです。

 それでも「高収入は魅力的だ」と言う人はいるかもしれません。フリーランスになって目一杯仕事をすれば、年間3000万円程度を稼ぐことも確かに可能です。ただし、それだけ稼ぐには、やはり時間を犠牲にしなければなりません。診療報酬の額が決まっている以上、フリー医師の収入は、よほど高名な先生でない限り、患者を何人診るかで決まります。一生懸命フルに働いたとしても身分は不安定のままで、病気で休んだときや老後に備えてお金を蓄えなければならないリスクを勘案すれば、フリー医師と常勤医の実質的な差は、収入ほど大きくないと言えるでしょう。

 不安要素はこれだけではありません。フリーになると、腕を落とす恐れがあるのです。常勤医なら勤務先にMRが来て最新の情報を提供してくれますし、職場の勉強会があります。学会などに出かけて、刺激を受ける機会もたくさんあるでしょう。しかし、フリーになると、よほど自分自身で努力しない限り、情報が入りにくくなり、スキルが低下しかねません。

どうしてもフリー志望なら技術が落ちない工夫を
 私はフリー医師の全てを否定しているわけではありません。例えば、「子育て中で、週に3日しか働けない」といった事情なら、フリーという選択もいいと思います。ただ多くの病院は、本音を言えばやはり常勤医が欲しいと考えていて、背に腹は代えられない場合にフリー医師を雇うのです。今は医師不足で、どこでも引く手あまたかもしれませんが、この状況がいつまで続くのかは分かりません。

 「どうしてもフリーでやりたい」という先生には、「せめて勤務先の中に、大学病院とか刺激が受けられる職場を1つは入れておきましょう。そうしないと技術レベルが落ちるし、転職市場における自分の価値も下がりますよ」とアドバイスしています。

 単に稼げそうだからと、安易にフリーを選択するのはリスキーです。ご自身の生活環境や、収入と時間のバランスなどをよく考えた上で決断してください。