質 問

 転職を希望しています。給与や勤務条件について病院と直接交渉する自信がなく、医師紹介会社を利用しようと考えていますが、たくさん会社があって迷っています。実際、転職がうまくいくかどうかは、紹介会社によってそんなに変わるものなのでしょうか。例えば、紹介会社の交渉力で、病院側が提示してきた給与をアップできるのでしょうか。(卒後10年目、36歳女性、腎臓内科医)

回 答
エージェントの腕によっては、待遇面の交渉もうまくいく

 医師紹介会社のエージェントは交渉のプロです。転職を希望する先生方が、「言いにくいことだと、なかなか自分から切り出せない」「面倒なことに煩わされたくない」と悩まれているのであれば、病院との間に紹介会社に入ってもらう方がいいでしょう。

 転職活動で良い結果を出す条件としては、先生ご自身の経歴やスキル、人柄などがもちろん大きなウエートを占めますが、エージェントの腕による部分もかなりあると思います。エージェントに多くの紹介実績や病院からの厚い信頼があれば、交渉段階で希望を認めてもらったり、給与を引き上げたりすることも不可能ではありません。例えば、エージェントがこれまでに紹介した医師の評判が良く、エージェントの腕を信頼した病院側が「いい先生をいつも紹介していただいているので、新しい先生の給与は多少金額を上げてもいいですよ」と応じるようなケースです。

 給与の交渉だけでエージェントの腕の良し悪しが決まるわけではありませんが、病院と太いパイプを持ち、信頼できるエージェントにお願いできれば、望むような転職ができる可能性は高いのではないでしょうか。

伝言マンになっているエージェントはダメ
 では、いいエージェントを見分けるには、どんな点に注意すればいいのでしょうか。ここでは分かりやすく、一番ダメな例を挙げましょう。それはエージェントが求職者のうわべの言葉しか聞かず、単なる伝言マンになっているパターンです。

 例えば、転職を希望する医師に対して、エージェントが「どんな条件をお望みですか」と尋ねた時、医師が「そうですね…年収にして2000万円くらい頂かないと、やっていられませんかねぇ」と答えたとします。こうした場合に、年収2000万円という額をうのみにしてしまうようなタイプです。

 実際には、「2000万円ないと絶対に嫌だ」と本当に思っている医師はあまりいないでしょう。「どうせなら多い方がいい」くらいの感覚で答えているのですが、一部のエージェントは病院側へ言葉通りに伝えてしまうのです。場合によっては、他の条件面では折り合っているにもかかわらず、それがネックで破談になってしまうかもしれません。

 こうしたことは、勤務条件の交渉でも起こり得ます。例えば、医師が「当直はできればしたくない」と話したのをエージェントがストレートに受け止め、当直を避ける理由や事情などを十分に確認しないまま、病院側に「当直なし」を前提に打診してしまう例です。病院の中には、「当直なしでも構いませんので、ぜひ来てほしい」と担当者が申し出るところもあるかもしれませんが、本音では「少しくらい当直をやってほしい」と思っているケースが多いはずです。きちんと事情を伝えないまま、仮に転職できたとしても、新しい職場で人間関係がうまくいくのか不安が残ります。

 エージェントにとって、転職希望の先生方は大切なお客様です。上記のエージェントの場合、恐らく「先生が望むことは絶対」「根掘り葉掘り聞くのは失礼」「不快な思いをさせてはいけない」という気持ちが強く働くため、希望の中身や理由、個人的な事情などを細かく聞かず、病院との交渉を始めてしまうのでしょう。とはいえ、これでは転職先の選択肢が狭まるばかりです。

 逆に、先生方の希望や本音をうまく聞き出し、現実的なアドバイスをしてくれるエージェントであれば、ある程度信頼して任せられると思います。給与条件について言えば、「2000万円はどうしても譲れない金額ですか?」「落としどころはいくらだと考えていますか?」「作戦でまず2000万円と言っておいて、あとで譲って落ち着くラインでもいいですか?」などと、妥協点も含め具体的にシミュレーションできるのが、腕のいいエージェントなのです。勤務条件についても、同様のことが言えます。

給料の相場を把握しているエージェントか見極めよ
 また、優秀なエージェントほど、多くの有益な情報を持っています。例えば医師の給与には、年齢やキャリア、地域によって妥当な金額、すなわち「相場」がありますが、そうした相場のデータをきちんとつかんでいるエージェントであれば、病院側との交渉も有利に進められます。さらに、腕のいいエージェントほど、給与の相場や病院側の都合を無視した希望を先生方が出してきた場合、条件を見直すようにきちんと進言してくれるものです。

 いずれにせよ、いいエージェントかどうかは、まず会って話してみないと分かりません。求職者の話に熱心に耳を傾け、きめ細かくサポートしてくれるエージェントを選ぶためには、幾つかの紹介会社の門をたたいてみるといいと思います。もしくは、身近で転職に成功した先生がいるなら、その方に「どうやってエージェントを探したのか」「誰かいい人を知っているか」と直接聞くのもいいでしょう。質問者の方の転職活動がうまくいくことを祈っています。