質 問

 医師として中堅クラスになり、そろそろ転職しようかと考え始めています。転職情報サイトを見ると「有利な条件で転職するためには、自分の『市場価値』を高めよ!」などと書いてあるのですが、「医師の市場価値」がどういうものなのか、よく分かりません。転職する時、どんな医師だと評価が高いのでしょうか。(卒後7年目、32歳男性、整形外科医)

回 答
市場価値を決めるのは雇用する病院側。相手のニーズを知れ

 転職市場において医師が評価されるには、同じ科の他の先生から「先生の診療は参考になります」と言われるような、臨床スキルを持っていることが大前提です。そこから先は、雇用する病院によって評価が違ってきます。市場価値は自分ではなく、あくまでも雇用する病院側が決めるものなのです。

「技術は人並みより上だが、人柄に少し難点があるA先生」と「技術はほどほどだけど、人当たりがいいB先生」という2人の医師がいた場合、どちらの市場価値が高いと思いますか。

 大まかに言えば、ポピュラーな疾患の患者を診ることが多い一般の病院なら、コミュニケーション能力のあるB先生のほうが高く評価されるでしょう。一方、高度な診療技術が求められる特殊な疾患を専門とする病院であれば、スキルが最優先されるため、A先生のほうが重宝されます。現時点で自分がどんなタイプの医師なのかを見極め、自身の市場価値を高く評価してくれる病院で働く。それがベストな選択だと思います。

 A先生の場合で言うなら、その技術の高さをきちんと理解してくれる病院に転職しないと、「人柄に少し難点あり」の部分で足を引っ張られる恐れがあります。「どれほどすごい技術を持っていても、一緒に仕事をするのはちょっと…」といった周囲の声が多くなれば、病院に居場所がなくなり、せっかくの市場価値も失われてしまいます。病院側のニーズを把握することがとても大切なのです。

急性期病院から療養型病院へ転職するも適応できずクビに
 医師の市場価値は雇用する病院側が決めるのですから、転職できた後でも、現状に自己満足していてはいけません。自分では仕事をこなしているつもりでも、病院側が求めるものに応えられなければ、市場価値がないのも同然です。

 私が知っている先生で、不幸な例がありました。長年、急性期の総合病院でバリバリやってきたC先生のケースです。50代に入り、体力的な衰えを感じたことから転職を決意。民間の療養型病院の経営者から請われて院長のポストに就いたのですが、うまくいきませんでした。

 急性期と慢性期では、そもそも診療方針や目標がまるで違います。急性期は病気を治すことで評価されますが、慢性期では患者の状態を維持させることが中心となり、治すことが全てとは言い切れません。ですから、ここは頭を切り換えて、C先生は今までと異なる価値観で仕事に臨む必要がありました。

 しかし、C先生はそれができませんでした。ある時、高齢の糖尿病患者が隠れてこっそり和菓子を食べているのを発見し、「治す気があるのか!」と激怒したそうです。医師として間違った行動ではないのですが、この病院で患者への厳しい指導が求められていたかというと、そうではありません。C先生は最後まで「俺は間違っていない」「俺はD総合病院で高い診療スキルを身に付けてきたんだ」と態度を変えず、患者や他の職員との関係が悪化。結局、数カ月で院長を辞めることになってしまいました。
 
 C先生ほどではなくても、似たような話はたくさんあります。例えば、病院の外来で1日に患者40人を診ていた医師が転職し、今の病院では60人を診察しているとしましょう。この医師は自分では「よくやっている」と思っていましたが、他の先生が担当する日には80人以上の患者を診ていたため、病院側から「もっと多くの患者を診察してくださいよ」と言われた、といったケースです。本人はきちんとやっているつもりでも、病院側が評価してくれないことは結構あります。

 私のところに転職の相談に来る先生の中には、「要は臨床スキルが高ければいいんでしょ」と考えているような方も見受けられますが、技術だけで評価されるほど単純ではありません。「○○医師」という“商品”が転職市場に出た時、一体どれだけの買い手が「ぜひ欲しい」と手を挙げてくれるでしょうか。ぜひ一度、自身のことに置き換えて、見つめ直してみてください。「自分に求められているものは何か」という意識や視点を持って、日々仕事をしているだけでも、市場価値は着実に高まっていくと思います。