質 問

 転職活動中に、医師紹介会社から私の希望条件にぴったりの病院を紹介されました。しかし、友人の医師にその話をしたら、「あそこは何かと問題の多い病院だっていう噂だぞ。やめたほうがいい」と言われて悩んでいます。ほかの医師からも同じ噂を聞いたので、あながち嘘ではないようです。諦めて他の病院に行ったほうがいいのでしょうか。(卒後18年目、43歳男性、消化器外科医)

回 答
噂だけで判断するのは危険。まずは病院の診療方針を確かめよ

 もしも給料を払ってくれない、長時間労働が常態化している…といった事実があれば、それは明らかに問題のある病院です。ただし、そういった実態の根拠がなく、単に噂が立っているだけなら、問題のある病院と思うかどうかは人それぞれの主観にすぎません。いい噂にせよ悪い噂にせよ、それだけで判断するのは危ないと思います。

 私は医師の転職を支援するエージェントの仕事をしていますが、転職の相談に乗る場合、まずドクターに希望条件をお聞きし、それに見合う病院を転職先の候補として提示します。この時、条件面では合致しているものの、「あそこだけは勘弁してくれ。いい噂を聞かないから」と難色を示されるケースがあります。

 きちんと実情を把握しているのなら構わないのですが、そうおっしゃる先生のほとんどが実態を知らず、噂だけで判断しているようです。転職先の選択肢がたくさんあるならまだしも、そうでない場合はとてももったいないことになります。

 とはいえ、誰だって就労環境が悪い病院で働きたくはありません。ではどうしたら自分にとっていい病院かどうかを見極められるのでしょうか。

自分にとって譲れない線はどこかを見極めよ
 まず、病院の診療方針を確認することです。ホームページに診療理念などを掲載している病院もありますが、それだけでは判断できません。病院見学などをして自らの視点や感覚で病院を見ることが大事です。面接時には必ず自分の診療方針と、院長や理事長の診療方針が合うかどうかをチェックしてください。医療に従事している方々は、皆それぞれ自分にとって理想の医療のビジョンをお持ちだと思います。それを話してみて、彼らに理解を示してもらえるかどうか反応を見るのです。

 例えば、「患者に金銭的な負担をかけずに診療したい」というスタンスのドクターの場合はどうでしょうか。「消化のいいものを食べて、ゆっくり休めば治るから」と注射1本せずに、患者を帰すような先生のケースです。もし転職を希望している病院の院長や医師が利益重視の姿勢で、お金のことしか頭にない人物であれば、その病院で働くことになったとしても長続きしないでしょう。

 極端な例かもしれませんが、病院の中には診療行為をお金に換算して管理しているところもあります。「先生、血液検査を○件、レントゲン撮影は○人分行って、1日に最低でも○円くらいの診療報酬は稼いでください。そうしてくれれば、最低年収の1200万円に、売り上げに応じた歩合給を上乗せするので、年収2000万円も夢じゃないですよ」などと指示してくる病院です。

 いい悪いは別にして、そうした病院の診療方針をどう考えるかは、先生によって個人差があると思います。頑として「絶対にそんな医療はやりたくない」と拒絶する人もいれば、「ここまでだったら許容できる」という人もいるでしょう。自分に100%合う病院はありません。自分の中の「ここだけは絶対に譲れない」という線を見極め、それを守れる病院を選びましょう。

 職場の雰囲気を見たいなら、一度アルバイトで勤務してみるのもいいかもしれません。実際、転職を希望する先生方と条件面だけで話がまとまらない時に、私のほうからアルバイト勤務を勧めることもあります。これなら病院のスタッフの様子を見たり、働きやすさを確認したりすることが可能です。ただし、自分が病院をチェックできるのと同様、病院側からも自身の立ち居振る舞いを見られていることを忘れないでください。