——院長に就任して以降10年余りで、クリニックの経営母体が3回も変わっているそうですね。
そうなんです。母体が変われば経営方針も変わります。例えば、大手企業がバックで医療法人の経営に深くかかわっていた際は徹底した利益追求を求められました。黒字を出しているときはおだてられこそすれ、ひとたび赤字に転落すれば「場合によってはクリニックの閉鎖もあり得るぞ」となかば“脅し”をかけられます。彼らはクリニックの運営を完全にビジネスとして捉え、そろばんをはじいているだけなんですね。
経営陣と辞める、辞めないでもめたこともあります。でも辞めませんでした。向こうも売り言葉に買い言葉で「もう後釜を探している」と言っていましたが、代わりが務まる人って意外といないんです。私が今、1日に診る患者さんの数は60人から多いときで90人。これくらいの数をこなせる人でないとクリニックは回っていきませんから。
——今後もクリニックで働き続ける考えですか。
働き始めたばかりの頃は呼吸器科の勤務医に戻ることも考えましたが、いったん最前線から離れてしまうと、どういう動き方をすればいいかとか忘れてしまうもので、今となってはその選択肢はありませんね。
一時期、クリニックの経営母体のトップとうまくいかなかった時に転職を考え、訪問診療を手掛けるクリニックから内定をもらったこともあります。実地研修として1、2回アルバイトをさせてもらったのですが、患者さんがお年寄りばかりで何となく気分が暗くなってしまい、その道に進むのは諦めました。今より高い報酬を提示されたのですが、私には向いていなかったですね。
おかげさまで現在の経営母体の医療法人はしっかりしており、やりやすくなりました。医療というものをきちんと理解しています。数字が思うように上がらない時も、ただ医者の尻をたたくのではなく、その原因は何かを分析して対策を講じてくれるので心強いです。今は置かれた環境で医師としてベストを尽くそうと思っています。