質 問

 勤務先から「次回の契約更新はなし」と言われてしまいました。自分としては普通にやっているつもりで、クビを言い渡されるような原因は思い当たりません。何か手立てはないでしょうか。(卒後20年目、45歳男性、内科医)

回 答
自分が思う「普通」や、自身の「市場価値」を見直せ

 生産性も悪くなく、周囲ともうまくやっているなど、普通にやっていれば「辞めてほしい」と言われることはまずありません。考えられる理由の1つとしては、自分の「普通」と病院の「普通」が違う場合です。言い換えるなら、病院の経営スタイルと自分の診療方針に大きな隔たりがあるときですね。

 例えば、病院としてはある意味、診療報酬をガツガツ稼いでほしいと考えているのに、医師は患者さんのことを考えて余計な検査もしなければ診察も丁寧で数をこなせない、といったケースです。

 病院側に一度、「この先生は使えないな」というレッテルを貼られてしまうと、それを剥がすのはなかなか難しいものです。どうにかして今の病院に残りたいなら、自分が思う「普通」を疑い、先方の要望に合わせることでしょう。

高給がネックになりリストラの憂き目に
 私は医師の転職を支援するエージェントの仕事をしていますが、実際、クライアントである病院から「ちょっと話が違う」といった声を頂くことがあります。

 ときどきあるのが、高給がゆえに採算が合わないとの理由からクビを言い渡されるケースです。クライアントからすれば決して安くはない金額を支払うわけですから、事前の期待値は高い。報酬が高額であればなおさらでしょう。だからこそ期待値と実際の働きにギャップがありすぎると、病院としては割高に感じてしまい、「もっと他にいい先生がいるのではないか」と考えてしまうのです。

 もし勤務先から退職を宣告される事態に遭遇したり、そこまではいかなくても最初の頃とは自分を見る目が違っていると感じたりする場合は、「自分の働きが報酬に見合うだけのものなのか」を見つめ直してください。他の先生と比べて生産性はどうか、周りのスタッフとはうまくやっているでしょうか。

 実際の仕事ぶりと報酬のバランスが取れ、相手の期待値を上回っている状態でないと、仮に別の病院に転職したとしても、また同じ状況にならないとも限りません。ましてや、こうしたことを繰り返すうち、自分が望むような転職先が見つからなくなってしまう可能性もあります。

 ではどうするか。考えられる選択肢は2つ。自らの市場価値を高めるか、もしくは厳しいことを言うようですが自らの市場価値に合わせた報酬にすることです。

 高い報酬を望むなら、それだけの価値を提供しなければなりません。1つには多くの患者を診ることです。ただ一般的に、年齢を重ねてくると若いときほどスピーディーに患者を診察するのは難しくなってくるでしょうし、ある意味、数をこなして許されるのは若いうちだけ。

 そこまでの患者数の診察はこなせないなら、それを補って余りある何かを提供できるのか、病院にどんな貢献ができるのかを示す必要があります。「経験」だけでは足りません。例えば、緊急時に素早く適切な対応が取れるとか、コメディカルを含めたスタッフをうまくマネジメントできるといったことがそれに当たります。

 求人は欠員補充だけではありません。「いい人がいれば別の先生に切り替えたい」というニーズもあるのです。「できるだけ高い収入を得たい」のは分かります。ただ、周りに比べあまりに突出した金額だと、いざ病院の経営状態が悪くなったときに真っ先にリストラの対象になるのもまた事実です。

 勤務医である以上、少なくとも報酬に見合うだけの働きをすること、また当たり前のことですが、常に周りから見られているという意識で手を抜かずにやることが大事なのではないでしょうか。