質 問

 最近、周囲に医局を辞めて転職したり、フリーランスになったりする人が多く、「自分はこのままでいいのか」と考えるようになりました。話を聞く限りではみんな望むような働き方ができているようなので、フリーもいいかなあと思い始めています。ただ医局にもう10年いて、いわばどっぷり浸かった状態で、新しい環境に馴染めるかが不安です。(卒後10年目、34歳男性、麻酔科医)

回 答
まずはフリーの実態と自分の性格を把握せよ

 辞め方にもよりますが、いったん医局を辞めてしまうと、再び戻ることは難しいようです。フリーランスになるかどうかは別にしても、まずは退局すること自体を慎重に決めた方がいいでしょう。周りに流されて決断したのでは後で後悔することになります。

 医師の転職を支援するエージェントをしていると、「医局に残って勤務医をしていた方が良かったのに…」と思う先生をしばしば見かけます。

 人は自分がどれだけ大変かは他人には話さず、いい部分だけを伝えるもの。フリーになった医師から話を聞いて、「稼げる」「自由」というイメージを抱く人が多いようですが、現実にはそんなことはありません。高収入なのは、相当な仕事量をこなしているからです。

 それにフリーの場合、自分の代わりにやってくれる先生はいないので、どんなことがあっても休めません。実際、フリーの先生で「優雅に海外旅行を楽しんでいる」なんていう人は見たことがありませんし、「高熱が出ようが何をしようが這ってでも病院に行っていた」と話す先生もいるほどです。

楽観的で人気者タイプ、自律性ありならフリー向き
 こうした甘くない現実に加え、質問者の方が心配されているように、ずばりフリーランスに向く人と向かない人がいます。私が考えるフリーランスに向く3つの要素を挙げてみましょう。

 1つ目に、楽観的な考え方ができること。フリーで一番ストレスがかかるのは、明日の仕事があるかどうか、ということです。例えば、患者さんが熱を出したために手術が延期になり、入っていた仕事が急きょキャンセルになったとき、「じゃあ、明日は前から行きたかったあそこに遊びに行こう!」という人と、「あさっても仕事がなかったらどうしよう…。今月の収入が減っちゃう」と考える人に分かれると思います。

 大きく分けて自分がどちらのタイプかなと想像したときに、前者のように「まあ、明日は明日の風が吹くさ」と思えるならフリー向き、そうでない人はあまりフリーには向きません。後者のタイプの人は自分で営業できる自信がなく、「いつ仕事がなくなるかもしれないストレス」にも耐えられないからです。

 2つ目に、人の輪の中にすんなり入っていけること。職場が変われば、新たな人間関係を構築しなければなりません。どこに行ってもなぜか話の中心になって、「来たばっかりなのに、もう何年もいるみたいだよな」と言われるような人気者タイプの人は、どこでもうまくやっていけるでしょう。逆に、3、4年いるのに影が薄いような人は落ち込んだときなどに愚痴をこぼせる相手がおらず、少々つらいかもしれません。

 3つ目、これが最も重要なのですが、易きに流れず、自律性が高いことです。医局にいる最大のメリットは、自分で意識しなくても医療技術がアップデートされる点にあります。でもフリーになると、誰が何を言ってくれるわけではありませんから、自分で自分を律して努力を続け、医師としての腕を磨いていかなければなりません。

 隣の芝生が青く見えるのは分かります。ただフリーという選択肢を取るのなら、少なくともその実態を知り、自分の向き不向きも踏まえた上で決断する方が賢明だと思います。