質 問

 お世話になった教授が間もなく退官を迎えます。医局で身に付けるべき知識や技術は身に付けたし、経験も十分に積んだので、教授の退官に合わせて自分も転職するつもりです。特に問題ないと思うのですが、教授や家族にはいつ頃、話を切り出せばいいでしょうか。(卒後13年目、38歳男性、消化器外科医)

回 答
土壇場でもめないよう、最終決定前に必ず報告せよ

 医師の転職を支援する我々エージェントにとって一番困るのは、最後の最後になって「やっぱり転職するのをやめます」と言い出す人です。それこそもう契約書にハンコまで押しているのにもかかわらず、土壇場でひっくり返す。こうした場合、理由として多いのが「教授に止められたから」なんです。

 質問者の方のように、教授の退官を転職の時機と捉える人は少なくありません。「教授の退官と同じタイミングで医局を辞めるつもり」と言って、転職の相談に来る先生はよくいらっしゃいます。

 でも、自分の思惑通りに事が進まないことも結構あるんです。例えば、「どうせ教授の退官時に辞めるのだから、それが今でも1年後でも同じだろう」と考えて、さっさと転職先を決めて教授に報告しに行ったとします。その際、教授に「俺がこれまでおまえにどれほど目をかけてきたか分かっているのか。俺が退官するまで医局にいろ」と言われて辞められなくなり、医局に残るというケースは少なくありません。
 
 仮に退官まであと1年くらいというのであれば、エージェントとしても「医局の都合でどうしても辞められないそうなので、もう少しだけ待ってもらえませんか」と病院側に打診できます。ただ、それ以上となると正直なところ、話はなかったことにせざるを得ません。

 このため私は、「大学の医局を出たいと思っている」という相談者の方には、「医局側に話したかどうか」を確認します。「まだ水面下で動いている」という場合、医局の規模やルール、教授のキャラクターにもよりますが、「まずは医局長に相談してください」と話しています。円満に医局を辞めるためには、医局運営の実務を担当する医局長の協力が欠かせないからです。そして、必ず最終決定の前に教授に話してほしいともお願いしています。

 確かに医局をいつ辞めようが個人の自由です。とはいえ、実際に強行突破したらどうなるのか。教授によってはすんなり通るかもしれませんが、「あの教授ににらまれたら、二度とこの地域では働けない」ということだってあり得ます。同じ辞めるのでも、できるだけ円満に辞めるに越したことはありません。

家族に事前に話しているかも重要なポイント
 また、もう一つ、転職直前での破談の理由として多いのが、家族の反対です。実際、「転職すると嫁に打ち明けたら離婚すると騒がれまして」という先生もいました。「事前にどうして相談しなかったのか」と聞くと、「俺の人生だからいいかと思って」と弁解していましたが…。

 「転職に当たって引っ越しも仕方がない」とか「やりたい仕事にこだわりたい」と話す人ほど、家族に何も話していないことが多い。そこで私は先ほどと同じく相談者に「ご家族は転職することを知っていますか」「奥さん(ご主人)はこの件に関してどう言っていますか」と聞いています。「まだ何も話していない」というときは、「私より先にそちらに話しておいたほうがいいですよ。後でおかしなことになりますから」と助言します。

 これまで多くの転職者を見てきましたが、やはり周囲にある程度応援された転職でないと、うまくいきません。反対を押し切って職場を変えると、うまくいかなかったときに「それ見たことか」と言われ、自分の立場が悪くなるだけ。それぞれに事情はあると思いますが、周りの理解をぜひ得てください。強引に進めてもいいことは一つもありません。もしスムーズな転職を望むなら、多くのノウハウを持っているエージェントなどに相談してみるのも一つの手だと思います。