質 問

 転職でいくつかの病院を転々とし、気付けば履歴書に病院名がたくさん並んでいます。自分なりにやってきたつもりですが、キャリアを積んでいる自信はありません。将来についての不安を少々感じつつも、「医師免許があれば食いっぱぐれはないのでは?」と思っています。今の時代、こんな考えでは甘いのでしょうか。(卒後10年目、35歳男性、内科医)

回 答
幻想です。今の世の中、それほど甘くありません。

 医師免許があれば転職先には困らない、どこでも雇ってもらえる、というのは幻想です。やりたい仕事、働いてみたい病院がある人なら、なおさらです。

 言い方は悪いですが、「医師免許さえ持っていれば誰でもいい」という医療機関なら、医師不足の今、どんな経歴の持ち主でも構わず雇ってくれるかもしれません。ただし、そういうところは運営も、医師の扱いもそれなりであることがほとんどです。

 表面的にはそんな態度をおくびにも出さないものの、病院側はそういう医師を大切にしようとは思いません。恐らく「何かミスをしたら理由をつけて辞めてもらえばいい」「もっと優秀な先生がいたらそっちにしよう」と考えているはずです。

安易に転職を繰り返す人たち
 特に本人が望むような転職が難しいのは、数カ月とか半年程度で複数回の転職を繰り返している場合です。これは一般社会での転職と変わりません。医師の転職の支援をする中で私も時々、そうした出入りの激しい履歴書を目にしますが、やはり病院側に良い印象を与えません。最も敬遠されるケースと言っていいでしょう。

 転職理由を聞くと、たいてい「人間関係がうまくいかない」とか「思っていたイメージと違う」といった、傍目には取るに足らないような事柄が少なくない。こうした人たちに共通するのは、毎回似たような理由で辞めているという点です。その場合、根本的な問題を解決しない限り、どこの病院へ移ろうとも状況は変わりません。

 「雇ってくれるところがいくらでもあるのだから、我慢してまで今のところにいる必要はない」というのが、そうした人たちの言い分です。確かに今は何とかなっているのかもしれません。でも選択肢はどんどん狭まり、いつか誰からも相手にされなくなります。

 当然と言えば当然ですよね。短い間に病院を転々としている医師から「信用しろ」と言われたところでなかなか難しい。まともな病院なら「これだけしょっちゅう病院を移っているということは何か問題があるんじゃないか」と見なして、はじめから採用しないでしょう。

 もし今のままではいけない、どうにかしてやり直したいと思うなら、まず「なぜどこの病院でも長続きしないのか」と自分に問いかけましょう。自分に原因があるのか、選ぶ病院が悪いのか、はたまた別に問題があるのか、色々な背景を分析した方がいい。それを踏まえた上で、現在の勤務先もしくは今度紹介される病院にできるだけ長く勤務することです。

 また半年や1年で辞めたら次はないと覚悟し、最低でも3、4年は一つのところに勤めてください。失った信用を取り戻す第一歩としては、これが何より肝心です。もう一度やり直そうという決意を行動で示せれば、再びチャンスは与えられるでしょう。

 安易に見える転職を重ねる人は少数かもしれません。それでも、例えば「職員募集に応募して自分は不採用になったのにもかかわらず、求人は出たまま」とか「契約が更新されなかった」「自分では頑張っているつもりなのに、周りの評価が低いと感じる」ことはないでしょうか。そんなときは「自分の経歴や技量に何か足りない点があるのかもしれない」と疑ってみてもいいでしょう。

 医師免許があれば一生安泰ということはありません。医師としてやりがいを持ちながら安定的に長く働くためには、やはり技術と人間力に磨きをかけ続けること。至極当然であるものの、これに尽きるのではないでしょうか。