質 問

 激務ではあるものの、仕事には大いにやりがいを感じていて、充実した日々を送っています。ただ今と同じように10年、20年働き続ける自信がなく、転科を視野に入れ転職を考え始めました。一方で、新たな診療科でやっていけるのかという不安もあります。実際のところ、転科という選択肢はありでしょうか、それともなしでしょうか。(卒後20年目、45歳男性、心臓血管外科医)

回 答
覚悟が必要。安易な考えでは後悔します。

 転科を希望する人は、大きく2つに分けられます。1つは、現在の診療科で扱っている疾患に近く、これまで培った知識や経験の5〜6割は活かせる診療科に移ろうと考えるケースです。例えば、心臓血管外科から循環器内科などがそう。こうした場合なら、キャリア次第では十分に技量を評価され、スムーズに循環器内科に移れることもあります。

 もう1つは、現在の知識や経験がほとんど活かせないケースです。例えば、腎臓内科医から眼科とか、内科医から精神科医といった転科。このくらい専門分野が離れてしまうと、また一から始める必要があります。

 たとえ「卒後10年です」と言っても、新たな領域の知識と手技はほぼ身に付いていません。仮に研修医の技量がゼロで、一人前を10とするなら、2くらいからスタートし、残りの8を積み上げていくイメージです。10に達するまでは少なくとも5〜6年はかかるのではないでしょうか。

 その間の報酬は当然ながら、研修医の給料よりいくぶん多い程度にしかならないことを覚悟してください。また、自分より若い医師たちと肩を並べて仕事したり、場合によっては指導を受けたりすることがあるかもしれません。そういう働き方を許容できるのか。それでも「転科したい」のなら、1日でも早く動いた方がいいでしょう。

現実逃避の先には何も生まれない
 確かに診療科は変えられます。でも転科はよほどの覚悟がないとしんどいので、そこに明確な意志がないと、多くの場合うまくいきません。

 転職の相談に応じる際、転科を希望する先生にまず質問するのが「そもそもどうして転科したいのか」ということです。

「今まで内科医として働いてきたが、認知症の患者をたくさん診るうちに精神科への興味がわいてきた」「腎臓病による合併症の眼の疾患を抱える患者と多く接する中で、腎臓内科医としてではなく、眼科医として患者に関わりたいと思うようになった」といった前向きな気持ちであれば、大賛成です。

 一方で、「今の診療科がしんどいから」といった理由なら、もう少しじっくり考えてみてください。特に疲れているときには目の前のおいしそうな仕事に飛びつきがちです。

 ネガティブな理由で転科を考えている先生に対して、私は「どうしてしんどく感じるのか」「しんどさは身体的なものか、それとも精神的なものか」「なぜ今の診療科を選んだのか」を聴くようにしています。そこに“正解”が隠れていると思うからです。

 そもそも高い志から現在の科を選び、しんどさの理由が身体的なものにあるのなら、転職をするにしても同じ科のままで、業務量をコントロールすればいいでしょう。妥協の産物として別の科に変わっても、仕事はつまらなく感じるし、続かない。今度は、身体的には楽だが精神的にしんどい状況に陥るかもしれません。

 「診療科自体が好きでも何でもない」という先生も時々います。たいがい仕事を続けていくうちにやりがいが見付かるようですが、いかんせん原点が弱いとブレたときに踏ん張り切れないのは事実。そんなときは「なぜ医師になったのか」「そもそも何がしたいのか」まで立ち返ることです。

 患者の病気を治したいのか、患者というより病気そのものに興味があるのか、急性期で劇的に良くなっていく患者を診るのが好きなのか、高齢者医療に興味があるのか—。

 現実逃避で転科をしてもうまくいくはずがありません。自分の本音を土俵に乗せること。そこに向き合うことが何より大切だと思います。