質 問

 育児休業を終え、まもなく現場に復帰します。私はあまり器用なタイプではなく、きちんと家庭との両立ができるか心配です。両親も遠くに住んでいるので、子供が大きくなるまでの間は時間外勤務も当直も難しく、職場のみなさんに迷惑をかけるのではないかという不安もあります。(卒後8年目、33歳女性、婦人科医)

回 答
技量を落とさないこと、自分も周りも気持ちよく働くことが重要。

 質問者の方のように、家庭との両立で悩む女性医師は大勢います。私自身、転職の相談に応じる中で、女性医師から持ちかけられる悩みで一番多いのがこれです。
 
 長い人生には、子育てに限らず親の介護や自身の体調不良など、時間的制約がある中で仕事をしなければならないことがあるでしょう。こうした状況に置かれたときに大事なのは、第一に「技量の維持に努めること」だと思います。

 医師というのは、腕が落ちると市場価値が下がって仕事や勤務先が大きく限定されてしまう職業です。医療の世界は日進月歩。現場からいったん離れてしまうとついていけなくなる度合いが他の仕事よりもずっと大きい。もしこれからも医師として第一線で働き続けたいと考えるのなら、現場で仕事をし続けることが重要だと私は思います。

 そして、もしその職場でずっと働きたいのであれば、子育て期間中は「周りに助けてもらっている」という意識を持ち、自分自身も周りも気持ちよく働けるように心掛けることが大切です。子育てを機に新しい職場に変わった場合でも、これは変わりません。

 例えば、よくあるのがこんなケースです。ある女性医師は子育て中のため、一切の時間外勤務をせず、毎日定時ぴったりに帰っていました。上司もそうした働き方を認めていました。

 それでも周りはいい気分ではありませんでした。彼女より年次が下の同僚などは「彼女が帰った後の穴埋めは全部こっちがしているのに、どうして俺の給料の方が少ないのだ」と不満に思っていたのです。そんな思いが積み重なってくると、気持ちよくフォローできないし、結果として職場の雰囲気も悪くなりますよね。

 限られた時間しか働けないのはやむを得ないことです。であれば、せめて勤務時間内は全力で仕事をしましょう。厳しいことを言うようですが、100%では物足りない。それでは時間外勤務や当直をされている先生と変わりません。120%でも150%でもそれ以上のことをやる気概を見せること。そうして初めて「彼女、頑張っているよね」と認めてもらえるのです。

 実際、産休や育休後に復帰したものの、いづらくなって転職するというパターンは多いようです。仮にそのまま残ったとしても、周囲から必要最低限以上の協力は得にくく、強いストレスを抱えることになるでしょう。

権利を振りかざすな
 家庭の事情などのため、「当直なし」を条件に転職する医師が増えています。ですが、結果的に職場で浮いてしまうことが多いようです。周囲の人とうまくいかなくなる人には1つの傾向があります。「事情が事情なのだからしょうがない。当直の免除などは当然の権利」と考えているタイプ。そんな人は往々にして、周囲に助けてもらえず孤立しがちです。

 逆に、「医師として時間外勤務や当直はやって当然なのに、私は事情があって免除されている。やむを得ないこととはいえ、他の先生たちに申し訳ない」と感じるタイプには、子育ての時期を上手に乗り切る人が少なくありません。

 病院側は「気にしなくていいですよ」と言っているにもかかわらず、「このままでいいのか」と、状況が許す限り月に1回でも当直に入ろうとする人もいます。そんな姿勢を見ると、何とか力を貸してあげたいと思うのが人間ですよね。こうした人は、子育てなどで時間的制約がある時期に、むしろ周りとの関係がぐっとよくなることもあるのです。

 時間に縛りがある中で仕事をすることは、自分の医師としての働き方や周りとの関わり方などを見直す上で良い機会になるのかもしれません。こうした時期はなにかとしんどいことも多いと思いますが、どうかみなさんにいいきっかけにしてほしいと思います。