質 問

 転職先を紹介してもらった人材紹介会社のコンサルタントから、やんわりと勤務態度を改めるように言われました。どうやら病院からクレームが入ったようです。私は事前の約束通りの条件で仕事をしているのに、非常に心外です。(卒後15年目、40歳男性、呼吸器内科医)

回 答
自分にも非がないのか振り返り「大人の対応」を。

 私は医師の転職を支援するエージェントをしていますが、紹介した先生に関して、病院からクレームが入ることは、細かなものを含めるとそれほど珍しいことではありません。

 トラブルの原因で多いのは、まず、「転職してきた医師が『事前の約束』をあまりに杓子(しゃくし)定規に主張すること」です。

 例えば、「転職前に定時で上がれると聞いていたので、一切残業はしない」という先生がいました。事前にそうした話があったのならば、この先生の行動自体が間違っているわけではありません。とはいえ、病院側としては、組織で働く以上、常識の範囲内である程度の融通を利かせ、時には少しばかり残業してほしい、とも思うものです。

 クレームが入った先生にこの種の相談をしても、「事前に取り決めた以上、これは僕の権利だ」と聞く耳を持ってもらえないことが少なくありません。そうなると、病院側も対応を変えていかざるを得ない。「そこまで厳密に権利を主張するなら、いかなる事情があっても義務と責任を果たしてもらいます」となってしまいがちです。

 少しでも遅れたら遅刻扱いとし、昼休みなどの休憩時間もきっちり管理する。やがて、周囲との関係はギクシャクし、病院内で孤立する…。そんな環境で、気持ちよく仕事をすることは可能でしょうか。

 そうしたトラブルの中には、そもそも、事前の取り決め内容を医師が誤解している場合もあります。

 例えば、以前、「検査しかやらなくていいという約束だったので、外来はやらない」と主張した医師がいました。これに対して病院側は、「確かに検査が中心でいいと言った。ただし、あくまで『中心』であって、検査『だけ』やっていればいいとは言っていない。今の収入が欲しいのであれば、うちのルールとして当然、外来もやってほしい」と反論。両者の主張はなかなか、かみ合いませんでした。

頑なに権利を主張するとかえってマイナスに
 転職後に不毛な争いを避けるには、まず、病院側とコミュニケーションを十分に図り、契約の条件を明確にしておくことが何より重要です。遠慮なく質問し、曖昧な部分をできるだけ減らしておく。それが結局、お互いにハッピーになる一番の方法です。

 既に契約を交わしていて、今現在食い違いが生じてしまっている場合は、両者で腹を割って話し合うしかありません。そのときに大切なのは、「落としどころ」です。仮に、病院側に落ち度があっても、頑なに権利を主張し続けていると、“面倒な先生”というレッテルを貼られ、何かあったときに真っ先に不利益を被ることになりかねません。

 医療の世界に限らず、契約交渉というものはとかく、お互いに自分の都合のいいように解釈するものです。質問者の方は「事前の約束通り仕事をしている」とのことですが、まずはその「約束」が自分の思い込みや誤解ではないかを見直してみてください。そして、病院側に非がある場合でも、もし今の職場を気に入っているのであれば、落としどころを探るという「大人の対応」を取るのがベストだと思います。