質 問

 先月、長年在籍した大学医局を離れ、民間病院に転職しました。新しい勤務先はこれまで働いてきた病院と比べるとかなり小さな規模で、戸惑うことが多く、何だか浮いた存在になっているような気がします。どちらかといえば内気な性格なのですが、職場に溶け込むにはどうしたらいいのでしょうか。(卒後10年目、35歳男性、腎臓内科医)

回 答
当たり前のことができているか、行動を振り返ってみて。

 新しい環境に、いわば異分子として入っていくわけですから、自分から歩み寄り、溶け込む努力をすることがまず必要です。これは医師であろうと一般の会社員であろうと同じです。

 確かに医療の世界では、しかるべきポストに請われてきた著名な医師に対し、周りが気を遣ってくれる場合がありますが、それはあくまでレアケース。もし「こちらから特に働きかけなくても、そのうちなじめるだろう」と思って受け身でいるのなら、考えが少し甘いといえるかもしれません。

 職場で浮いている気がするとのことですが、診療以前に、当たり前のことができているかどうか、まず振り返ってみてください。例えば質問者の方は毎日、あいさつをきちんとしているでしょうか。

 職場での評価とあいさつは直接関係ないと思われるかもしれません。しかし、限られたスタッフで運営する小規模病院ほど人間関係が濃くなりやすく、緊密なコミュニケーションが求められます。スタッフ同士できちんと意思疎通が図れているかどうかは、医療サービスの質にも大きく影響するものです。

 また小さな病院では、ほかの診療科との連携が必要になる局面も多いことでしょう。ましてやあなたが、コメディカルや事務をまとめる立場にあれば、なおさらです。実際、コミュニケーションがうまく取れないことが病院側に問題視され、雇用契約が更新されなかった例もあります。

 さらに私は、「転職先になじめない」という相談を受けたとき、「自分のことを周囲にもっと話してください」「自分のことを知ってもらう努力をしてください」とアドバイスするようにしています。

 そう私が答えると、時々「どうしてプライベートなことまで話さなきゃいけないんだ」と反発する先生がいますが、自分の殻に閉じこもっていては、組織の中で安定して働くことはできません。

 着任直後であるにもかかわらず、周囲と距離を取っていたら、どうなるか。早晩、「新しく来たあの先生は何を考えているか分からない」という噂が立ち、話しかけてくれる人も少なくなり、次第に病院内に居場所がなくなる…。これは本当によくあるパターンです。

 私は「個人的なことを洗いざらい話せ」などと言っているわけではありません。一定のコミュニケーションを取り、信頼関係を築くために、ほんの少しでいいから自分がどんな人間なのか、周囲に示す工夫をしてくださいと言っているのです。

 例えば明日から、1日に一度、一人ひとりのスタッフと仕事以外の「たわいない会話」を交わすことを日課にしてみてはいかがでしょう。最初は「おはよう」「今日は寒いね」くらいで構いません。徐々に話題の幅を広げていけばいいんです。新任なのですから、地域に関することなど、あなたから質問したいこともたくさんあるのではないでしょうか。

 良い仕事をするために必要な「当たり前のこと」を実践するのに、性格は関係ありません。きちんと当たり前のことをしているという自信があれば、「自分は浮いているのでは」という不安もそのうちなくなるはずです。