質 問

 医局に所属し関連病院を回ってきましたが、「患者さん一人ひとりにじっくり時間をかける」「最小限の検査や投薬で治療する」という理想の医療を実践したいとの思いがわき上がり、転職を考え始めました。ただ民間では、売上至上主義の病院が多いと聞きます。売り上げ増やコスト削減に追われるようでは、理想の医療の追求は覚束ないと思っています。もうけ主義の病院かどうかを見分ける方法はありますか。(卒後10 年目、35歳男性、小児科医)

回 答
診療方針を聞けばある程度分かる。でも、採算性を考えるのも医師の仕事の一部。

 転職前の面接のときに、例えば、「外来はどういう方針でやっていますか?」「医師の評価はどのようにされていますか」といった質問をしてみればいいでしょう。このときどんな回答が返ってくるかで、どの程度、数字にこだわっているかはおおよそ見当がつくと思います。

 その回答に納得感があれば転職先候補にすればいいし、「口ではいいこと言っているけど、怪しいな」と思うのであれば少し慎重に話を進めたほうがいいかもしれません。

 もっとも、何をもって売上至上主義とするかは難しいところです。例えば、「外来で1日平均何人の患者を診察していますか」といった質問を投げかけたら、「概ね60人程度を診ている」という答えだったとしましょう。

 これに対して、あなたが目指す医療の実践のためには、外来は1日40人程度が限界と考えるのであれば、その病院は、あなたから見て売上至上主義に当たるのかもしれません。60人がその病院の標準であるなら、60人以上を診察しなければ評価されず、遅かれ早かれ「生産性が悪いので、もう少し頑張ってください」と病院側から言われて、「売り上げのことばかりガンガン言われる!」と憤慨する日が来るでしょう。自分の考えるラインと、病院のラインが乖離している限り、そうなることは避けられません。

 今は厳しい経営状態に置かれている病院が多いので、売り上げやコストに関してうるさいという側面はどこでもあると思います。どの病院の経営者だって、現場の先生たちには、患者さんのことを最優先に考え仕事をしてもらいたいと考えています。ただ一方で、彼らは医療機関として存続しなければならないという責務があります。ですから、ある程度は売り上げや利益を意識して病院経営をせざるを得ません。

 あなたの理想は大切にしていただきたいと思いますが、患者を1人診るごとに診療報酬が発生し、その積み上げが病院の売り上げになるという事実からも目を逸らすことはできません。

 つまり、より多くの患者を診察しなければ、病院は先生たちの給料を支払うことも、新しい医療機器を買うこともままならないのです。もし最新機器の購入を申請するなら、「その機器を導入することで月にどれくらいの患者さんが見込めるか?」「採算が取れるまでにどのくらいかかりそうか」まで考えることが、今の時代の医師には求められています。

 現実的な対応として、1日に診る外来患者数など、自分の中である程度の基準を決めておき、それを上回る場合には、転職候補先の院長などとじっくり話し合ってみることをお勧めします。患者数が多くても売上至上主義ではない病院はたくさんあります。話し合っているうちに、病院側とあなたにとってちょうどよい落としどころが見えてくることも少なくないはずです。