質 問

 私は総合病院で内科部長を務めています。つい先日、当科のある医師が辞めたがっているといううわさを耳にしました。彼は腕が良く、患者の信頼も厚い。今辞められたら困るし、診療体制にも支障を来します。どうしたら彼を引き留められるでしょうか。(卒後25年目、50歳男性、内科医)

回 答
辞意を切り出される前に機先を制する。

 部下に「辞めたい」と言われてしまったら、はっきり言ってもう手遅れです。迷っている部下でも、自分自身で一度「辞める」という言葉を口にしてしまうと、引っ込みが付かなくなるのでしょう。まず辞意を翻すことはできません。次の勤務先が決まっているかどうかにかかわらず、まず引き留められないものと思ってください。

 仮に慰留に成功しても、「残ってやったのだから、ああしてほしい、こうしてほしい」といった権利主張が激しくなることが多い。周囲にもいい影響を与えませんから、退職の意志を告げられてしまったら、去る者は追わずの姿勢を取った方が賢明です。

 その意味では、退職のうわさがある部下が辞意を表明しそうになったとき、機先を制することがポイントになります。例えば「部長、ちょっとお話が」と言われてしまったら、「まさか辞めるとかって言うんじゃないよな」と相手のせりふを取ってしまう手があります。脅しているように受け止められてはいけませんから、少し冗談めかしたような言い方にするとよいでしょう。

 本人の意志が固ければ「はい、その通りです」で終わる可能性もあります。でも「お世話になったという思いはあるけれど、もう無理かも……」などと迷っている医師なら、わずかな時間でも機先を制することで、気持ちが変わることは現実にあります。

 もちろん、日ごろから上司として必要な気配りをし、居心地がよく働きやすい環境をつくることが、腕のいい医師をしっかり囲い込み、辞めさせないようにする一番の対策であるのは言うまでもありません。

 理由なく人が辞めていくことはないのです。部下が辞めたがるからには、人間関係、組織、制度など何らかの問題、原因があります。今からでも遅くはないので、どうして彼が辞めたいと思っているのかを考えてみましょう。「確かに気が回っていなかった」と反省すべきところがあれば、行動を改めるといいのではないでしょうか。

 重要なのはやはりコミュニケーションです。辞めたいと言ってくるほとんどの人が、「元気がない」とか「話をしていても上の空である」など、何らかのシグナルを出しています。

 そこを敏感に察知して、「最近、元気がないけどどうしたの?」とか「仕事でつらいことがあれば言ってほしい」といった言葉をかけるようにしましょう。それができれば、今回は引き留められなくても、少なくとも第二、第三の退職者を生まないようにできるはずです。

 また、人員不足による過重労働も勤務医の退職理由の一つとなるので、短期的な対策として非常勤医師枠を拡充したり、常勤医師の採用活動状況を院内で定期的に情報共有するといった対策も重要です。