自己評価と他者評価にギャップはないか?
 私は医師の転職を支援する中で、本人は「できる」と思っているが、その実「できていない」と評価されているケースをたくさん見てきました。本人が「できる」と言うし、キャリアを見る限りこれくらいできるだろうと私自身も思って新しい勤務先を紹介したものの、病院から「何もできないじゃないか」というクレームが入ることがあります。要は、先方の期待するレベルに達していないということです。

 大学医局にいたころはあまり分からなかったけれども、外に出ると実は評価が結構シビアだったというケースはしばしば見られます。自己評価と世間の評価というのは必ずしも一致しません。「いやいや、関連病院での評判はすこぶるいい」と思うかもしれませんが、そこでの評価は下駄を履かせてもらっている可能性があります。

 関連病院側は大抵、大学医局から派遣されてくる先生を、人事異動で派遣されてきた組織の人として捉えています。だから「この人、10年目なのにこれしかできないの」と思っても、「まあ、しょうがない。人事異動だからそんなものだよね。次の人はハズレじゃない人がいいな」くらいにしか思っていないこともあります。優しいといえば優しく、厳しいといえば厳しい目で見ているのです。ですから、すぐに冷遇されることはありませんが、時間がたてば徐々に評価は厳しくなっていきます。

 「教授は横暴だ」「ひどい」と言う前に、自分が外の世界で通用するだけの技量を身に付けているかどうか考えてみてください。その目安として、自分が転職することに関して先輩や同僚が「いいんじゃない」と言うのか、「お前、まだ早いよ」と言うのか、聞いてみることをお勧めします。

 また、先輩医師や同期と比べて、自分はどんなレベルにあるか客観的に観察してみてください。尊敬できる先輩と比較して今の自分はどうか。もし残念な先輩がいるとして、「ああはなりたくない」と思うなら、今のこの環境で何かできることはないのかを考えてみてください。

 もし誰の目から見ても力がある、自分なりに医局で得るべきものは十分得たと言い切れるなら、できるだけ教授の理解を取り付けたうえで、これを機に転職してもいいでしょう。

 教授には教授の医局運営の方針や部下育成についての考えがあるはず。単に転職だけの話ではなく、教授とキャリアという観点で話をすべきです。「先生はこんなふうに考えてくださっていたのか」と思うのか、全く相容れないか。それは話してみなければ分かりません。まずは教授がなぜそれほど転職に反対するのか、その理由から考えてみるといいかもしれません。