—現在の勤務地は関西ですが、この地域を選ばれた理由は。

 出身が関西だからです。仕事の面では、全国どこでもよかったのですが、大学に入るまで住んでいたところなので、生活しやすいだろうということで決めました。親もいますし、先々、介護の問題とかも出てくるだろうと。

—転職に向けて、具体的にどのようなアクションをとったのですか。

 まずインターネットで医師の人材紹介会社に登録しました。登録したのは、M社とS社の2社です。たくさんあって、どこがいいのか分かりませんでしたが、比較的大手で情報が多そうなところを選びました。

 登録すると求人情報がメールなどで届くようになります。最初はそれをチラチラ見ているだけでしたが、いつかは腹をくくらなければいけないと思い、9年目ですかね、最後の病院に行く半年前くらいに「やめて、実家の方に戻りますから」と先に教授に言いました。そして、人材紹介会社に対しては、いついつに転職するつもりなので、お願いしますと頼みました。

—その時の教授の反応は。

 私の場合、「実家の方に戻ります」と話したので、「じゃあ、しょうがないね」という感じでしたね。「最後、ちょっと不便なところ行ってくれるか」ということで、最後の1年はへき地の勤務になりました。

金銭交渉をしてくれるので精神的ストレスがない

—紹介会社に登録するのに不安はありませんでしたか。

 全く知らないシステムなので、正直、不安はありました。しかし、どこかの病院に知り合いがいて話を通してくれるといったアテもなかったので、ほかに方法がないと思いました。医学雑誌などに出ている求人に応募する手もありますが、経験的にダイレクトに交渉するのは難しいと思いました。

 転職する医師というのは、それまで医局の人事で「あっち行け、こっち行け」という形で動いてきたので、“すれてない”というか、きちんと条件交渉するのに慣れていない。そういう意味では、紹介会社という医師の側についてくれる仲介役はありがたかったです。

 紹介会社はまずこちらの要望を聞き、転職候補の病院を探してくれます。そして条件交渉もしてくれる。金銭的なこと、「年収がいくらほしい」とかなかなかいいづらいじゃないですか。そういうことも全部やってくれる。だから精神的ストレスがない。ちょうどプロ野球選手の代理人みたいな感じだと思います。
 
—では紹介会社のサービスには満足しているわけですね。

 私は結局、M社の方で転職したんですけど、M社には満足しています。医師側に立って、本当に親身になっていろいろやってくれました。

 しかし、紹介会社というのは、契約をとれば、医師を病院に送り込めば、医師がどんな目に遭おうが「勝ち」というところもあるわけです。S社にはそういう部分が感じられたので、あまりいい印象を持っていません。

—どの辺りですか。

 私は最初から「県内の転職は考えていない」と言っていたのに、S社は再三、県内の病院を紹介してきた。「関西に戻る前に少しの期間でも」とか言って。県内の病院のことは“裏事情”も含めて大体こちらは知っているわけですが、いいことしか言わないんですね。そもそも私の希望とは違うわけですし。この人は、私の満足度など関係なく、目先の実績がほしいんだなと感じました。

 先ほどお話したように、こちらにはそもそも医師紹介会社に対する漠とした不安みたいなものもある。だからこそ、信頼が大事だと思いますが、そういうところが見えてしまうと信頼できなくなります。そのうち、向こうからの連絡が来なくなり、こちらも連絡しなくなりました。幸いM社の方はよかったので、途中からM社一本でいこうと決めました。