—医局を飛び出したことに後悔はありませんか?

 今は、組織を動かすことにやりがいを感じていますが、手術をやらなくなったことへの一抹の寂しさはあります。私が、医師になってからがむしゃらに、心血注いで学んできたことが生かせない寂しさです。学会や指導医の研修会などでは、特にそれを感じます。

—ここに至るまでの転職活動を総括されて、いかがですか?

 今の収入は年収2300万円になり、この3年で1000万円近く高くなったので、条件面では成功といえるでしょう。人脈が広がったことや、いろんな体験をしたことで、柔軟性が身についたこともプラスになっています。何より、自分が打ち込めるものが見付かったという点には満足しています。

 転職活動を振り返るとき、医局を飛び出す前に、医局人事で動いていた当時の上司に言われた「医局で生き残りたければ純情を捨てろ」「己自身を知れ」という2つの言葉を思い出します。

 「純情を捨てろ」というのは、組織の中で生き残るには「見ざる、言わざる、聞かざる」が大切で、自分の意見をぶつけてはいけないという意味です。私は、純情が捨て切れずに、医局を飛び出してしまったわけです。その後の病院が勤まらなかったのも、そのせいだと思います。

 そして、もう一つの「己自身を知れ」ということでは、当時から上司は私に「君はマネジメント能力に優れているから、それを伸ばす道を考えろ」と言っていた。でも若いときには、それに気づかず、外科医として生きる道を一生懸命探していた。己自身が分かっていなかったんです。結果論ですが、環境の中での自分ができること、生かせる能力を知ることで、やっと落ち着ける場所が見えてきたように思います。

 医局を離れることは、想像以上に大変なことです。でも、純情を捨てなくても、己を知る努力をすれば、道は見付かると思います。ただ、医局制度も悪い面ばかりではない。学位や専門医、指導医の認定が取得できたのは、医局制度の中にいたおかげです。医者としての基礎を作ってもらったと思っています。最初から飛び出していたのでは、今の自分はない。飛び出すなら医師としての十分な実力を付けてからにすべきだと思います。