質 問

 私は専門性に優れた医師になりたいと思っていて、内視鏡の手技に磨きをかけてきました。ただ、今の職場には私の上にA先生という看板医師がいるため、あまり仕事が回ってきません。最近、A先生のおこぼれにあずかっている状態からいい加減に抜け出し、自分の力を試したいと思うようになりました。転職して腕を十分に発揮できる場所を見付けることは可能でしょうか。(卒後11年目、36歳男性、消化器内科医)

回 答
急がば回れ。自ら道を切り開く気概と実力があればチャンス大。

 まずは一般的な話からさせてください。釈迦に説法かもしれませんが、専門性を極めたいのなら、症例が集まる病院で修業するのが一番です。特に若いうちはなおさらでしょう。ただ、質問者の先生のように経験を十分に積んだ後ならば、新しいステージに進むのも選択肢の一つになると思います。

 その場合、頭に入れておいてほしいことがあります。医師の転職を支援するエージェントの立場で言うと、質問者の先生の場合、転職先そのものは比較的容易に見付かると思います。ですが、「転職直後から多くの症例をこなしたい」という希望では、自ずと転職先の候補は狭まります。専門性を生かしたいのであれば、通勤時間や報酬など、その他の条件をある程度譲歩することも覚悟せねばならないでしょう。

 「たまたま実績を上げていた前任者が家庭の事情などで辞めて、ちょうどポストが空いた」といった都合のいい話はそうそうありません。ましてや自分が望む仕事に集中でき、なおかつ家から近く、条件もほどほどの転職先を探すなど至難の業だと思ってください。

 とはいえ、家庭の事情などで勤務地が限られるという人もいるでしょう。その場合は、どんな選択をすべきか——。私はこうしたとき、「今回は勤務地限定で、新しい勤務先を決めてください。そこで様々な業務をこなしながら専門領域の仕事を増やしていったらいかがですか」とアドバイスしています。

 存分に専門を生かせるようになるまでは、他の業務にも尽力する。「不本意な環境でも辛抱しろ」と言いたいわけではありません。置かれた環境の中で努力して、自分で自分の仕事内容を変えていけばいいのです。

 例えば、消化器系の診療を将来強化する計画を打ち出している病院に入り、一般内科外来から始める。段階的に消化器の専門外来を手掛けて、さらに内視鏡の検査日も設けていって……というふうに、自分が入ったことでその病院では従来あまり診ることのなかった患者さんを増やしていくステップを踏む。当初月に10件程度だった内視鏡検査が2年後に100件まで増えたという形に持っていけたら、これほど素晴らしいことはないでしょう。

 はじめから専門性を発揮できる先を懸命に探すのもいいでしょう。ですが、たとえ時間はかかっても自ら道を切り開く方が病院から高い評価を得られ、居心地もよくなり、発言力に重みが増すと思います。何よりやりがいが大きいはず。腕に覚えがあるのなら、こうしたアプローチも考えてみてはいかがでしょうか。