医師向けの職業紹介会社に登録して、就職活動を始めました。登録する前は、紹介会社はマッチングをしてくれるんだと思っていたのですが、実は違うんですよね。医師の意向は十分に聞いてはくれますが、紹介する病院をいくつか候補に挙げてくれる時点で既に、病院が医師不足で本当に困っている病院優先で紹介してくれるのです。

 金を払う先は、医師ではなく病院なのだから、当たり前なのですが、こちらが「こんな働き方をしたいので、こういう病院を探してほしい」というと見かけは、それなりの病院を紹介してくれますが、入職しないと実態は絶対に分かりません。

 私はこれを「人買いバザール」と名付けました。しかし、紹介会社は情報を持っていますから、余計な期待をせずに、うまく付き合うことが肝要だと思いました。

内実ひどく、あまりの忙しさに1年で再転職

—何社ぐらいの紹介会社に登録されたのですか?

 そのときは2社ぐらい。でも、2病院で面接を受けた段階で、あっさり就職を決めました。その病院は、兵庫県の地方都市の200床程度の病院で、一般病床と療養病床がある、いわゆるケアミックス型の病院でした。

 院長自身が医局を飛び出し開業したという経緯の病院で、院長が魅力ある人物だったので、その人柄にひかれて就職を決めたのですが、病院の中はとんでもない状態でした。

 私が入職して1ヵ月目に、透析室担当の内科医が2人辞めてしまい、透析患者80人(外来60人、入院20人)を誰も診られない状態になりました。そのとき、大学で腎移植、肝移植をしていて慢性腎不全患者の外科手術・術後管理での血液透析の経験がある私に、お鉢が回ってきた。私は、維持透析の管理の経験はなかったのですが、手術もあまりなかったし、治療がほとんど必要ない高齢の入院患者を診ているより、勉強になると思って引き受けました。

 一事が万事そんな調子で、いろんな仕事が私のところに回ってきて、透析管理、手術、麻酔、ICU管理、外来診療(消化器・腎不全)、当直…、とにかく忙しく働きました。1年で3〜5年分も働いた気分でしたし、その病院の売り上げナンバーワンは私だったと確信しています。

 医局時代に1300万円程度だった年収は、1700万円程度になっていましたが、あまりのコストパフォーマンスの悪さに、「こりゃやってられん」と思い、再転職を考えました。当時はまだ、外科医としてもっと手術をやりたいという思いも強かったので。勤めたのは1年間です。