—次はどうしたのですか?

 今度は3、4社の人材紹介会社に登録して、たくさんの病院を訪問して,民間の病院がどういう医師を求めているか、はたして外科医が民間病院で本当に手術ができるのかを確認し、少し慎重に転職活動をしました。

 結局は、求人募集広告を見てその病院に直接、履歴書を送り面接を受けました。その病院は、院長が外科医で、手術にこだわっていたのが決め手でした。そういう院長の下なら手術ができると思ったのです。

 しかし、ここも実態はひどかった。入職前にアルバイトで(1)胆嚢摘出術(腹腔鏡手術)、(2)大腸癌手術、(3)ヘルニア再発に対する手術—の3例の手術の術者を務めたのですが、手術レベルの低さに驚きました。イレウスの大腸癌の手術を執刀した患者が縫合不全を起こし時に私は、即座に人工肛門増設術を施すよう提案したのですが、院長に「大丈夫、必要ない」と受け入れてもらえませんでした。

 でも、私は外科のトップとして迎えられると聞かされていたので、私が外科を立て直せばよいと思っていました。ところが、私が入職する2カ月前に、もう一人、外科医が入職しており、外科のトップは彼で、私はナンバー2だったのです。

 その医師が外科医として優れていればまだ我慢できたのですが、前述の大腸癌手術後の患者さんの合併症に対して、何の手だても打たず放置していた。術者の意見よりも院長のご機嫌をとっていた。結局、その患者さんは栄養不良、腹膜炎を併発し、亡くなられました。

 そんな状況に医師として許し難いものを感じ、入職後わずか2カ月で辞職。再々就職活動を始めました。その病院では、年収はさらにアップしていて、2000万円の契約でした。

大学の関連ではない病院に十分に訓練を積んだ医師はいない

—行く先々でかなりひどい状況を見られてきたわけですね。

 転職するたびに、実感が確信に変わっていたのですが、人材不足で求職している病院には大学の関連病院レベルの実力のある医師がいない。そこは慢性的な人手不足であり、十分にトレーニングを積んでいる医師がそもそも働く所ではありません。特に、手術や術後管理のレベルは低いと言わざるを得ない。

 医局を離れて、症例数が多く、医療レベルが高い病院で、バリバリと手術をこなすのは無理だと感じました。一匹狼は、マンガやドラマの世界では成り立ちますが、現実には難しい。そこで、再々転職活動では、外科医へのこだわりを捨てようと考えました。心機一転、外科にこだわらず、「透析」「シャント手術」「乳がん検診(エコー、マンモグラフィー読影)」「腎不全外科」に携われる病院をターゲットに、探しました。